15―血煙の倫敦


「勝手な言い分ね。ガキが。我達に死んでほしいなら、命を対価に払うよろし」
 ヒ首を構えた紅玉に、マイケルはただ笑うだけだ。
「中国人は本当に損得に厳しいなあ。そういえば、君は如何だい? エミリー。全ての記憶は消させて貰うけれど、アメリカ人だろ? 僕に味方してくれたら殺しはしないんだけどなあ」
 次の瞬間、響く銃声。
「大統領、一言で言うと「おとといきやがれ」だ」
「エミリー・・・しかし、それではあなたは祖国に対する反逆に・・・」
 依子の言葉にエミリーは、腰のもう一丁を抜きながら遠い目をする。
「撃つ前に言ってくれよ」
「あ! す、すみません!」
 慌てる依子に軽く指を振る。
「ジョークだ」
 ふ・・ふふ。
 笑い声が少女たちの唇から洩れる。
 それはやがて、明るい大きな笑い声に変わり・・・。
「久しぶりですね、こういうの」
「誰のせいあるか。心配かけさせた分、暫く食事当番はお前よ」
「仕方ねーな、あたしも手伝ってやるよ」
「お気持ちだけ戴きます」
「遠回しに断られた!?」
 笑っている少女達を、意味が分からないと云った表情で見つめる二人。暫し笑い声が支配した後、ようやくマイケルは言った。
「おかしいなあ、おかしいなあ。アメリカ人と云ったら世界でナンバーワンの国民だよ? 君はそれを捨て去って後悔しないのかい?」
 ショートパンツの横からセミオートの銃を二丁、エミリーは取り出し、笑う。
「そりゃ、此処でこいつらを捨て去った方が後悔するに決まってるだろ? それより、撃たれたところは平気なのか?」
 マイケルには理解できなかったようだ。それが表情にありありと出ている。
「そんなあ・・・。君はアメリカ人だよ・・? それなのに・・・。ああ、撃たれた所は平気だよ。旧型も破壊しないといけないしね」
 ジャック・ザ・リッパーがナイフを構える。
「いずれは破壊される身だ・・・。しかし、その前に俺の兄弟は壊す。確実に、壊す」
「ハハッ、壊されるのは困るなあ。第一、傷心の僕にナイフを向けるなんて酷いや」
「お前この人数差で何言ってるか。我達、お前が死んだことで美圀が混乱するの如何でもいいね。ノープログレムよ」
 その言葉を聞いた途端、マイケルの表情が変わる。
「だって・・・僕が愛する国民だよ・・・。悲しいに決まってるじゃないか・・・殺すなんて・・・」
 さっきまでの明るい表情が一転して涙に変わった事に、一瞬の混乱が起きた。思わず、撃たれたところは平気と言う異常さを忘れるくらいには。
 そして、だから、それに気づかなかった。
「ファイア!」
 襲ってきたのは、衝撃。そして爆発音。
 その攻撃は海上から。
 砲撃。撃ったのは。
「英国海軍(ロイヤルネイビー)・・・!」
 砲弾は直撃を免れたが、思わず倒れ伏した四人。その視界に、ユニオンジャックを掲げた戦艦が映る。
 戦艦としては小型の方だろう、しかも一隻しか無いようだ。
 しかし、生身のこちらには十二分に脅威である。大砲を一発でも食らえば、体は確実に大穴が空くか、ばらばらになる。
「悲しい・・・悲しいよ・・・」
 マイケルの泣き声が砂煙の中響く。四人は砂塵の中、唯一確認できた事に衝撃を受けた。
 彼の服には、拳銃の後らしき孔が空いていたのだ!
「お前は、人間か・・・?」
「酷い・・そんな事を疑うなんて・・・・。僕は人間だよ。ちょっと丈夫なだけさ」
 刹那、その体はジャックに飛び掛かり、地面に押し倒すように体当たりした。
「君と一緒にしないでくれよ」
「ジャックさん!」
 依子の声に、大丈夫と答えようとして大きく咳き込む。
「ああ、そんなに咳をしたら痛いよ。肋骨折ったんだから」
 その通りだった。
 苦痛に呻くジャックから、またマイケルは一瞬で離れ、紅玉のヒ首をかわす。
「丈夫な癖にすばしっこいね」
「スマートだろ?」
 紅玉は大声を上げた。
「どうせ聞いてるあるな、マグロ野郎! こっちは英圀の関与まで認められたよ!」

 ウラジーミルはイヤホンをにかけた指を外した。
「ロンドンにおいて、ジャック・ザ・リッパー及びヘヴンズ・ドアー店員がアメリカ大統領と交戦中だ」
「意味が分かんねえよ」
「バカ女」
「殺すぞ。・・・!」
 アンドレアのコルセスカが水を吹く。それを軽くかわした幾之助はまた刀を構え直した。
「大体こんなヤツ相手にしてる時点で援軍になんか行ける訳ねえだろ!」
「ファミリーを呼んだら如何だ?」
「無駄死にするわ」
「成程、それも道理!」
 幾之助の刀を、特殊警棒で振り払う。
「お前こそ局員呼んだら如何だよ」
「無駄死にさせたくない」
「テメェを無駄死にさせてやろうか! まあ、理解できたのは、俺達はこぞって、アメリカとイギリスにハメられたって事だな」
「貴様はハマる予定に無かったぞ。欲をかくからこうなるんだ」
「逃げてやろうかコラア!」
「黙れ。新たな通信が入った」

「考えたくないあるが、英国海軍は我達が死ぬから見られても平気と思って出てきたあるな」
「そうですね・・・」
「逆に言えば、見られたくないって事ね」
「そんなん当たり前だろ」
「それにしても、ロンドンの街が静かすぎると思わないか? こんだけ騒いでるあるよ我達」
「確かに・・・」
「そこであるが・・ジャック、お前の出番あるよ」
 首を傾げるジャックに、紅玉はにゃっと笑って見せた。
「依子、ジャックのお供をしてもらうね」