43―バッドエンドな末路


 入ってすぐ、入口の敵は一掃された。
「Are you enjoying it? HAHAHA!」
 エミリーが笑って、奥から押し寄せる敵に銃を向ける。
 二丁のリボルバーは正確に、韓国兵の眉間を狙う。
「元気良すぎよ」
「……紅玉」
 一掃したのはエミリーの銃ではない。依子のBARだ。そして、現在、押し寄せる敵兵を切り刻んでいるのは。
「ロリータ! 一人であんま遠くに行くなよ!」
「遅いです! ちゃんとついてきてください!」
 ロビンが鋭い木枯らしのように、前方へ進む。動くたびに落ちる、首、腕、胴。
「アイゴオオオオオ!」
 絶叫が響くのも、この少女には関係ない。鋭く身長より長い鞭が一回転する。
「ま、好好よ」
 紅玉は軽く目を閉じるように瞬きをすると、「退くね小娘」と言って、体を宙に躍らせた。
 たんっとバックステップするロビンの前の韓国兵が、喉笛を匕首で切り裂かれる。
「これまで切られたり血みどろは勘弁よー」
 その迷彩服の懐から取り出したのは、内部の地図。
「んー」
 猫がネズミの逃げ道を調べるように、韓国兵を足の下に置いて見る。
「なんと?」
「大したことじゃないある。入口は確かに入ってきたとこ一つよー。それから、中に行くにつれて兵士吹き出てくるよー」
「わざわざ調べなくても、兄様が聞きだしたことと同じじゃありませんか」
「うるさいね。こういう事は何回も確認するものある。ま、今回は気にするないね」
 びりびりと地図を破る紅玉に、軽くため息を吐く。
「ではさっさと行きますよ」
「あいあい」
 その背後から、銃撃。
 横の部屋から飛び出ようとした兵士が、倒れる。
「油断すんなよ」
 エミリーだ。兵士は顔面を見事に撃ちぬかれている。
「……」
「謝謝」
 面白くなさそうに振り返るロビンだったが、紅玉は胡散臭い笑顔で笑う。
 部屋の扉を開けて、依子は残りの兵にBARの弾丸を叩きこんだ。悲鳴と「イルボンノム!」という絶叫が響く。
「盗人がうるさいよー」
 紅玉が軽く死体を茶かすが、依子は黙って汗を手拭いで拭う。
「先に行きましょう」
「この先の倉庫に入ってるはずよ」

 地下から断続的に響く発砲音に、ヴィンセントは笑う。
「僕の可愛い可愛い可愛いロビンは、頑張ってるみたーい」
「そんなに可愛いを連呼するんなら、もっと可愛い扱いをしてやったらどうだ」
 さっきから、走馬灯が流れ込んできて仕方ないジャックが悪態を吐く。
「えー、してるじゃなーい。あの子は僕だけのお姫様だよー」
 笑いながら、ヴィンセントは拳銃を取り出した。
「ボス!」
「分かってるって」
 走ってくる韓国兵。
「せっかく森がフィールドなんだから、木に紛れてくればいいのに。ばっかじゃないの」
「油断するな」
「流石にこれは僕でも平気だよ」
 懐から拳銃を取り出す。
「ちなみにこれ、グロッグ17ね」
「オーストリア製か? オランダ製は?」
「Nichts Halbes,nichts Ganzes」(帯に短したすきに長し)
 発砲音と共に倒れる韓国兵援軍。
 構わず打ち続けながら、ジャックに告げる。
「命をかけて僕を守ってね。そうじゃないと、中の女の子たちが生きて帰ってくるかわかんないよー」
「はあ?」
 ジャックが眉を潜めるが、ヴィンセントは構わず撃ち続ける。
 韓国兵が途絶えた。
「らーくしょう」
「おい、ヴィンセント」
「んー?」
 完全に油断している様子に、あきれ半分危機半分で言う。
 しかし遅かった。
 森から、突如、また韓国兵が現れた。
「そろそろ弾切れじゃないか」
「死ね!」
 カチッ
 すべて同時の音声である。
 韓国兵の弾丸が、頬をかすったにとどまったのは、ヴィンセントの幸運だと、ジャックは思った。
 しかし、ヴィンセントの顔はみるみる青くなった。
「に、逃げよう!」
「はあ?」
 意味が分からないジャックだが、ヒューリック商会のオランダ人達は、大慌てで荷をまとめ始める。
「逃げるんだよ! 早く!」
「だから何から」
 ドオン
「だ」
 地下の扉から、炎が噴き出した。

 韓国兵の死体を踏み越え、たどり着いたのは倉庫。
「あった!」
「これです! うちのクリスマスグッズ!」
 顔を綻ばせる依子とエミリーだが、ふと気付く。
「あら?」
「紅玉は?」
 ロビンがうーんと首を回す。
「遅れているんじゃありませんか? さっさと荷を運び出してしまいましょう。後からどうせ追いついて―」
 ロビンの動きが止まった。
 その視線の先には、ヴィンセントからもらったエメラルド。
 デュラハンの涙は、贈り主の危機を知らせるという―。
 緑に美しく輝いていた石には
 今
 黒く染みが
「にい、さま」
「ロビン?」
「ロビンさん?」
 不思議そうに振り返った二人が見たのは
 青い目を殺意に燃やした少女と
 彼女から噴き出した殺気が、刃物に変えた空気によって
 叩き斬られたガス管
「兄様あああああああ!」
 ロビンは躊躇なく、手榴弾を取り出し
 ピンを抜いてそこに叩き付けた

「きゃあああああああ」
「あのバカ! 地下で放火して爆破しやがった!」
 頭を抱えて逃げ出すヘヴンズ・ドアーの二人、背後には炎が迫っている。
「兄様あああああ!」
 背後から走ってくるロビンにはほぼ黒目が無く、鬼気迫る表情でたちまち二人を追い抜き、地上に飛び出す。
 地上で出てくるのを、心配に固まりながら待っていたジャックを見つけると、あれだけ嫌っていたにも関わらず、胸倉を掴んで地面に突き倒す。
「兄様は!? 兄様どこ!?」
「!?」
「さっさと言いなさい!」
「あ、泡食って逃げてったぞ」
「どこに!?」
「ちょっとわからな―」
 ジャック・ザ・リッパーは運の悪い男である。
 エミリーはしみじみそう思った。
 何故なら、二人が炎に追われて地上に這いあがった瞬間、依子の目に映ったのは。
 地面に転がってロビンと抱き合うジャックだったからだ。
 いや、そう見えただけだけど。
「ジャックさんの馬鹿ああああ!」
 最大の絶叫が響いた。

「何事だ! 何事だ!」
 最奥の指令室で、男は落ち着きなく立ち上がった。
 先ほどから通信に誰も出ず、幾ら呼んでも誰も来ない。
 しかし、自分で外を見に行く勇気など、この将校は持ち合わせていなかった。
「調達したのはふざけた玩具! なんて日だ!」
 そこに、ドアが開いた。
「何をもたもたしていた!」
 怒鳴りつける将校。しかし、気づく。目の前にいるのは部下ではないと。
「悪いね、誰も来ないある」
「!?」
 赤いチャイナ服を見て、息を吞む。
「ちょっと聞きたいことあるよ」
「誰だ? お前は誰だ?」
「張紅玉(チャン ホンユイ)覚えはあるか?」
 将校の頭は回転した、そしてすぐたどり着いた。
「張! 毒水計画の張か! ありがたい! 中国軍に早く連絡してくれ!」
「何と?」
「何を言っているんだ! 毒水計画の同志の李が危機に瀕していると! なあに金ならすぐ日本から搾り取って」
「毒水計画とは何か?」
「だからさっきから貴様は何を言っている? 敵軍の水に毒を流す、我が国と中国の共同研究だ。私もその一員だったんだからな! 早く中国から援軍を!」
「ああ、あれのことね」
 紅玉はニィと笑うと、匕首を取り出した。
 そして
「無かったことになったよ。再見了(さよなら)」
 将校の首を、掻き切った。