48―片割れの弟、アダム


「HEY! HEY! HEY! 臭う! 臭うぜホン!」
「わかてるよ。大きい声出すないね。イラッと来るある」
「ははッお前も賢いふりしてこういうのは分かっちゃいねえなあ! でかい声ってのはそれだけでイイんだよ! ビビるんだよ!」
「たった二人でアホか。戦争狂は常識ないね」

「ジャックさん、なるべく私に寄り添って、離れないで」
「依子……」
「私の武器は、離れられるとうっかり誤射します」

 金髪の下の、蠱惑的な唇が言葉を紡ぐ。
 お互いの声は通信できている。
 後は、一声言えばいい。
 敵に向かって白い指をさし。
「rock 'n' roll!(撃って撃って撃ちまくれ!)」

 一斉射撃。
 隊列も無い。
 法も無い。
 規律も無い。
 ただバカスカ撃ちまくるだけ。
 ストリートギャングのやり方だ。
 ならば、こちらも。

 皆殺しにすれば良いだけだ。

「ははっ、君たち、すごいなあ。女の子だと思ってなめてかかっちゃった。ごめんよ、悪気はなかったんだ」
 アダム・トンプソン。
 ゴーグルを外した瞳は爽やかに笑みを作っている。
「お前がこちらか。あいや、そんな顔してたか」
「もうちっと焦ったほうが良いんじゃねえか? なんせ」
 お前以外誰も残っちゃいねえぜ?
 エミリーの声に、あたりを見回す。
「いやいや、あまりの腕前に感服しちゃってさ。エミリーっていったかな。君の武器は二丁のリボルバー、幾ら二丁あるっていったって、外してたんじゃ絶対に弾数足りないよね。それが足りてるってことは、一発も外さず急所に当ててるって事だ。そっちの中国人は紅玉って言ったっけ?」
 足元の死体の首から引っこ抜く。
 それは、一センチほどの太さのある、両端を尖らせた針だった。形状としては、日本の棒手裏剣が近いが、長さは20センチほどある。
「これはあちこちに刺さって、全員死んでるって事は、毒が塗ってあるんだよね。東洋の神秘! 暗器っていうのかな? 初めて見たよ! 僕、嬉しくなってきちゃうなあ」
「HEY! ちょっといいかい?」
「何だい? ああ、彼らの事なら気にしなくていいよ。人ならすぐに集まるし、死体だって役に立つし」
「いいや、そういう事じゃない。スクランブルエッグ並みにシンプルな問いだよ」
 笑っているアダムに、二人は眼を鋭くする。
「何でお前、針が刺さらねえし、弾丸も当たっているはずなのにダメージ0なんだい? ランプの魔人でしたってオチか?」
「ああ、いいよね、ジーニー、テレビでダニエルと見たよ。だけど、違うなあ、れっきとした人間だよ。あ、いや、ちょっとハンサムかな?」
 紅玉が布で端を縛った匕首を目前に垂らす。
「エミリー、お前、やっぱりアホね」
 ひゅっと刃が飛ぶ。
「答える訳ない。斬ればいいある」
 匕首は、確かに、アダムの首筋を切り裂いた。
 はずだった。
 カキン
 鳴ったのは明らかに金属音だ。
 皮膚に、刃が立たず、弾いた!
「エミリー、君も撃ってきなよ。どうせ装填は終わってるんだろう?」
 返事はなく、エミリーのリボルバーが全弾を撃ちまくる!
 狙いは眼球!
 筋肉を自在に強化するアメリカ大統領、マイケルが唯一鍛えられなかった部分!
「おいおいおい」
 たらり、と汗が流れる。
「誰か目覚まし時計を鳴らしてくれ」
 ぽろぽろと落ちる。
 鉛玉。
「本当にすごいね! 全弾目玉に当たったよ! 目玉は脳みそと直結してるから、普通なら、僕は頭が無くなっちゃってたなあ」
「えーと」
 構えたままのエミリーが、歯の間から息を漏らす。
「分かりますか? 紅玉さん」
「そうあるな」
 中国人特有の、愛想のない表情が、わずかに歪む。
「可能性は3つある」
 指を立てる。
「一つ、こいつはロボット」
「違うなあ。れっきとした人間って言ったろ」
 アダムが笑う。
「二つ、目玉に当たる直前で、弾が全部落下した」
「そいつはねえよ。当たったのはちゃんと見えてた」
 エミリーが否定する。
「三つ、こいつは体の表面を硬化できる」
「ビンゴォ!」
 高まる笑い声。
「賢い! 賢いね君! 一目で見抜いたのは君が初めてだよ! ねえ、ガールフレンドになってくれないかな!? 中国人は初めてだけど、きっと僕はいい男だよ!」
「エミリー」
 目を見開いた笑い声の中、紅玉は懐から瓶を取り出す。
「息をしたら置いてくある」
 緑色の小瓶が地面に叩き付けられる。ガチャン、という小さな割れる音。
 次の瞬間噴き出す煙。
「逃げるのかい!? また来てよ! 待ってるから! 僕はここで待っているよ! 永久に! 永久に!」
 胸中で吐き捨てる二人の心は同じだった。
 また来ざるを得ないんだ、人が息止めて逃げる時くらい黙ってろ馬鹿!
 煙はただの煙幕。ただし、煙幕を吸い込んでむせてたりしたら、お話にならない。
 白い煙が薄くなり、消えるところまで走って、二人はようやく止まった。
 息が軽く切れた。
「依子とジャックは大丈夫かあ?」
「何、失敗したら逃げてくるあるよ」

 その頃、ジャックは同じように煙に巻かれて、依子に手を引かれ走っていた。
「ジャックさん、私の手を離さないで! 今はぐれたら二度と会えません!」
「すまない、いつも君頼りで」
「いいえ、煙幕に気付かなかったのは私の不覚です! 何より、そんな事は如何でも良いのです!」
「え」
 声が小声になった。
「ジャックさんさえ、私の傍にいてくださったら、何もかも如何でも良いのです」
ぽつり、と言われた言葉が胸に響いた。
 ただ、返事を返せるほど、ジャックは器用ではなかった。