65―命の譲渡


 語り終えると、パーシーからバチリと火花が飛んだ。
 電気特有の金の光だ。
「何を」
 とっさに構える少女達に、諦めたように微笑む。
「敗者は従うよ」
 そして、諦めた目がギラリと変わる。
「エネルギー全開!」
 叫ぶと同時に、雷鳴が鳴り響いた。
 バリバリという凄まじい音と共に、人影が大量に落ちてくる。
 迷彩服を纏った彼らの袖には、英国国旗(ユニオンジャック)が小さく縫い付けられていた。
 木の上に潜んでいたのだ。
「兄さんの人を蘇らせる力、一般的に言えばネクロマンシーは一日に一回しか使えないんだ。蘇らせた瞬間射殺するつもりだったんだろうね」
「良いのか?」
「君に言われたくないよ、ジャック・ザ・リッパー。大英帝国に背いたのは君も同じだろ?」
 肩を竦め、仕方なさそうに笑うパーシーに、ジャックは言いにくそうに返す。
「ザ(ただの)・ジャックと呼んでくれ」
 笑みが大きくなった。
「恩知らず」
「それなりに頑張ったんだ」
 ジャックが視線を逸らすと、アダムがダニエルの傷を見ていた。
「弾は抜けてるね」
「治療するよ」
 すぐにパーシーが走り寄る。それにダニエルが薄く笑った
「任せましたよ。クズ医者」
 アダムがした止血を更に最適なものにする。
「任されたよ、破落戸」
 場違いなほどにのんびりした声が響く。
「さて、こちらも」
 ケネスの言葉に、ロビンがそっと離れ、エミリーが死体を取り出す。
 誰とも知れぬ死体と、ヴィンセントの遺体。
 ケネスはロビンの手を取る。
「ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね」
 そのまま跪き、淑女の手にキスするように指を口に含んだ。
「ッ!」
 ロビンが顔をしかめる。
 ケネスが口を離すと、指からはぷっくり血の玉ができていた。
 血を飲んだようだ。
 にこ、と微笑み立ち上がると、死体の元へ向かう。
 そっと、死体の体に手を触れた。
「あなた様の電気(エナジー)、頂きますね」
 それはまるで天使の迎えのように。
 ケネスが触れたところから、ズ、ズズズと音を立てて。
 死体がミイラ化していった。
 死体に残った生命力が全て吸い取られる頃には、完全に干からびて原型は人の形のみ。
 ケネスはそっとミイラの頭を撫でて
「お疲れ様でした」
と告げる。
 その瞬間、ボロボロとミイラは崩れていった。
 あまりの能力に全員が息を吞んでいると、今度はヴィンセントの遺体に触れる。
「また、頑張ってくださいね」
 再び雷のような輝きが起こった。
 ただ、それは静かにヴィンセントを包み、ゆっくりと浮き上がった。
 輝きは長く感じたが、ほんの一分も消費しなかったろう。
 ゆっくりとロビンの元に、降りていった。
「兄様!」
 慌てて抱きかかえるロビン。
 光は薄く消えていき、腕の中にヴィンセントが残る。
 顔に、確かに血の気が―。
「ロビン?」
 目を閉じたまま、ゆっくりと唇が動いた。
「はい! 兄様! わたくしはここに居ます! 兄様! わたくし、兄様がいないと、何も、何もできなッ」
 ふふ、と笑い声。
「そうだね、ロビン」
 ヴィンセントの手がゆっくりとロビンの頬を撫でた。
 ぼろぼろと涙が落ちた。
「ここに来るまでに、どれだけ迷惑かけたの?」
「いっぱい、いっぱいかけました! いろんな人に、いっぱい!」
「そうか、それじゃ、罰がないとね」
 そこに紅玉の声が響いた。
「それは依子も同じあるな」
 少し楽しげな声だ。。
「そうですね」
 依子はすっと前に出た。
「落とし前を、つけましょう。ロビンさん」
 こくり、とロビンが頷く。
 決着のつけ方は分かっている。
「武器なしにして差し上げます」
 うっすらと依子が目を細める。
「不利ですよ」
 ロビンが拳を握る。
「怪我人が偉そうに!」
 ごッ。
 見事にロビンの拳が依子の頬に決まった。
「誰のせいの怪我ですっけねえ!」
 次の瞬間、依子の拳がロビンの頬に決まる。
 ついで蹴り、ようしゃなく腹に。
 返す拳、容赦なく顔面に。
 キャットファイトなんて温いものではない。正真正銘の殴り合いだ。
 血しぶきが飛び、打撲痕が残る。
 二人に聞こえないように、ヴィンセントは語る。
「ロビンはね、本当は一人で何でもできるんだ。掃除も洗濯も料理だって。でも、できないフリをしてる。何でか分かる?」
「どうでもいいね」
「まあ、聞いてよ。僕無しでは生きていけない子じゃないと、僕が手放しちゃうと思ってるんだろうね。推測だけどね。そう言われて手放されちゃったんじゃないかな。言葉遣いなんかで名家の出なのは分かるんだけど、男の名前を付けられた妾腹の子らしいし、手放した方が家的にはダメージ無いよね」
「それがどうしたあるか」
「そんなロビンってすっごく可愛い!」
 のろけが終わった。
 そして、ロビンの拳が依子のみぞおちに入った瞬間、勝負は決した。
 依子も蹲ったがロビンも体力が尽き、そのまま倒れこんだ。
「引き分けあるな」
 紅玉が冷静な目を向ける。
「あらあら、傷だらけでござります。パーシー、治療してくださいまし」
 のんびりとしたケネスの声が、その場の幕を引いた。