2010七夕

「えー、ご列席の皆さま、今宵は生憎の雨となりましたが。各都道府県を代表して七夕祭りを開催したいと思います」

 どっから持って来たのか不明だが、3メートルはある巨大な笹がホテル宴会場室内に飾られている。

 東京都たる葵主催の七夕祭り、本人は「忙しいのに・・」とブツブツ言っていたが、その割に高級ホテル宴会場を借りきっている。やるとなったらとことんやるらしい。

 織姫の言い伝えに習って、メイン料理は八重持参の三輪そうめんだ。つるつるとした食感と完璧な塩加減が実に好ましい。ただし、茹でたのは八重ではない。うまいもの無しで有名な奈良県、緑色のみそ汁を作成する男には例えそうめんであろうと渡せない。(作者注:美味しい物は本当はありますよ! 八重の料理は下手ですけど!)

 各県の短冊がきらきらと並ぶ。

 一番派手な金ぴかの短冊は水都のもの。「阪神タイガースが優勝しますように」。その隣に澄江が「水都の野郎がパチろうとしている球場、市、空港、タイガースが死守できますように」とか書かれてぶら下がっている。短冊に筆跡が食いこんである辺り、怖い。

 一際目を引く紅い短冊は忠秋、「透子が優しくしてくれますように」。しかし、透子の短冊には「ストーカー死ね」・・・男女とは上手くいかないものである。

 他にも紹介したいところだが、宴もたけなわになっているので、最後に千鳥が「冬コミ受かりますように」と吊るしていたのを紹介して終わりにしよう。夏は落ちたようである。

「そうめんばっかりやったら栄養が無いやり?」

 と松阪牛の鉄板焼きを始めたのは天海である。乙雨と希乃の三重県ちびっこーズがちょこんと皿を手に待っているのが微笑ましい。

「あ、僕も焼くの手伝おか?」

 八重が身を乗り出すも、篤の

「いらんけえ、座っとれ」

という凄みの聞いた忠告で止める。大変怖いが、彼は別段ビビらせようとはしていない。

「篤さんー、冬馬さんの鮎食べましょうよー」

「おう。塩焼きじゃのう」

 暁に対して嬉しそうだし。

「さて、宴もたけなわですが。ここで一つ余興を」

 葵がマイク片手に指を鳴らすと、ばさり、と布が降ってくる。

 布に書かれたのは星と『フィーリングカップル2010』の文字。

「織姫と彦星にあやかって、我々も最も気になる相手を投票し、見事カップル成立を目指すという催しです。皆様には事前に気になる相手を書いて頂きました。あの紙の意図はこんなところだったのです」

「きゃー、面白そーねっ」

 ホオズキの歓声を聞きながら、彩はひっそりとほくそ笑んだ。この企画を通したのは彼女だったのだ。理由は一つ、葵に気になる相手を聞きたい。できれば自分だと言ってほしい。

 密かにオーラを燃やす彩。何か赤い炎が出てきそうだ。

「と、言っても一方的な想いを発表すると時間がかかりますので、成立したカップルのみを発表したいと思います」

「一方的だと惨めやしね」

 香が笑顔で黒い事をさらっと言う。ショタは見かけだけか。

「まずは、沙紀と陸斗・・・」

「何ィ!?」

 同時に二方向から声が上がる。六津とつくばが沙紀に入れていたようだ。六津は齧っていたリンゴを握りつぶし、つくばは納豆の皿をひっくり返す。東北仲間と、北関東に取り入れたい男。大体想像がついた結果だと思うのだが・・・葵は軽く聞き流す。

「いや、カップルじゃありませんよね。誰が姉弟書けと言いましたか」

「ご、ごめんね、僕お姉ちゃん以外あんまり親し」「こんなちゃらついたモンで男女付き合うなんざ、不埒でねが! 私は結婚を前提とした付き合いしか認めねえ!」

 結婚を前提としてたらOKなんだろうか? 沙紀から全く冗談じみた空気が出ないのだが。っていうか良い。如何でも良い。葵は如何した。

 じりじり焼ける彩をよそに、発表は続けられる。

「さて、続いてのカップルは・・・何と二股です。天海と乙雨と希乃カップルー! 私の言いたい事は皆さん分かってくれると思いますが、和むので認めます」

「わあーい、私もお母さん好きや!」「きのもー」「私もやー! 二人とも大好きー!」

 三重県からはマイナスイオンでも出ているのだろうか。かって忍者として鳴らした女が変わったものである。しかしそのマイナスイオンも効かない、全然爽やかになれない。

「最後は暁と篤・・・。腐ったお嬢さんが喜びそうですね・・・。ノーコメントとします」

「暁は嫁じゃけえのー」

「良いです。一般的男子としては聞きたくないです」

「ちょっ違いますよ! 僕は異性とは聞いてなかったきん!」

 いつも通り暁は人の話を最後まで聞いてなかったらしいので、疑惑は浮かべるだけに留めよう。

 それは良い。リア充爆発しろ。それは良い。

「あの・・・葵ちゃんは誰に入れたの?」

 ぼそぼそと小声で問う。誰に入れやがったてめー。まさか美琴か? ツンデレ萌えより幼馴染に萌えろ! 昔はそれが主流だったんだ!

葵からは至極真面目な返事が返ってくる。

「自分、と書きましたが」

「・・・・・・・・・」

 がっくりとうなだれる彩をよそに、葵は美と結持参の泡盛に向かって去って行った。