徳島るり様マジメイド

 寺社仏閣に囲まれた木製の家のインターホンが鳴る。
 ピンポーンピンポンピンポンピンポーン
 奈良県の具現化八重はパソコンをシャットダウンした。
 玄関に声をかける。
「水都かー? 上がり」
 引き戸が開く音がし、大阪府の具現化たる水都が上がってきた。
「アポ入れといたのに、玄関まで来てくれへんのかい」
「そりゃ君と分かってるからね」
 本音交じりの軽口を叩く。分かっている理由は特徴的なインターホンの鳴らし方の為で、アポはあまり関係なかったりする。
「あー、外あっつかったわー。秋とか嘘ちゃう? 詐欺ちゃう? ガセちゃう? デマちゃう?」
「暦を疑うんなら気象庁行って来。正しい太陽暦を教えてくれるから」
 九月の初めの奈良は確かに盆地特有の蒸し暑さがある。
「はい、お茶」
 500ミリリットルのペットボトルを渡すと、水都は渋い顔をした。
「せめて注げや!」
「ちゃんと冷えたるよ」
「冷えてなかったら真心を疑うで!」
 文句を言いながらペットボトルを一気飲みする弟にふと違和感を覚えるが、そこは長年の経験から大したことない違和感であるのも分かっているので無視をして、お菓子の袋を渡す。
「はい食べ」
「せめて開封して皿にあけろや!」
 ようやく違和感の正体が分かる。
「水都何か今日口うるさくない?」
「そやねん。兄貴、俺は昨日まで徳島行って来た」
 徳島県の具現化、るりの姿を思い出す。
 働き者の彼女は(何故か)常にメイド服に身を包み、ぱたぱたぱたぱた忙しそうに動き回っていた。
「知ってる。お土産持ってくる言うてたやん」
「おう、お土産これ、小男鹿」
「おおきにー」
 徳島名菓の柔らかい生地を思い、顔を綻ばせる。
「大事に戴くわ」
「おう。美味いでってちゃうねん!」
「え、これで会話のターン終了ちゃうの?」
「違いますうー! 俺どんだけ都合の良い男!? とにかくやね、るりの家に行ったら」

 再現
「お久しぶりです、大阪様!」
 玄関まで走ってきたるりに、水都は大阪土産の551の豚まんを渡す。彼女は嬉しそうに胸に押し抱いた。
「ありがとうございます!  大事に戴きますきん!」
 そして玄関で用意してあったスリッパに履き替える頃には彼女は台所に飛び込み、あっという間に梨を10個ほど剥いて出して来た。 
 脅威のスピード技。そして徳島の果実はとても甘い。川にオリゴ糖を流して土壌を甘くしているという噂があるほどだ。
 当然ながら梨も非常に美味しく、綺麗にパッチワークが施されたソファでそれを戴くのは極楽に等しい。
 しかし極楽に果てはない。
「コーヒーで良かったですか?」
 ドリップで入れたコーヒーにきちんと添えられたミルクと砂糖。それだけでも十分なのに、彼女の気配りはそれだけではない。
「あ、水まで出してもろて悪いな」
 そう、コーヒーの熱さが出した梨に合わない状態に口がなった時用に、氷を入れた水まで出してくれるのである。
 その後、水都は終戦後の買い出しのような大量のお土産(菓子、米、サツマイモ、スダチ等)を持って関西に帰って来たのだ。

「まー、熱いなあ」
「違う! これモテた自慢と違う! 気配りの差の話! OK!? アンダスターン!?」
 そんな事言ったって、るりからの水都への熱い気持ちは本人が気づかないのがおかしいほどなのだが・・・。
 まあ、そういう待遇は(気合の差こそあれ)自分も同じなので言わないようにしておく。るりの気配りは凄い。決して真似しようとしないレベルに。
「関西に帰って来た俺はもう絶望したで! 美琴なんか温い麦茶出して来た上、「氷を入れるともったいない」とか言うし!」
「・・・・へー、四国行けば?」
「努力を放棄されましたよ! ちなみにるりは関西に入る気満々やった! 正直欲しい!」
 嘆きまくりながらペットボトルを空ける水都だったが、彼は京都府の具現化美琴に何故そんな扱いを受けたのか知らなかったりする。決して彼が嫌われてない証拠に、徳島土産を持って訪問したときの美琴サイドのお話でも。

「じゃあ10時に行くからな! 待っとれよ!」
 大阪府たる水都は意外とアポはきちんと取るタイプだったりする。それはまあ、本人いわく緊急事態の時はいきなり訪ねてきたりもするが、常にアポなしで訪れる和歌山県こと白梅には見習ってほしいものだと常々思っているところだ。言わないけど。
 さて、今日も暑い。お茶菓子にアイスクリームでも出そう、と決めて冷蔵庫を開いたところでふと気づく。
 アイスクリーム=冷たい お茶=冷たい では、舌の感覚も無くなるしお腹にも悪い。
 兄と違って大いに気遣いができる美琴は、さっそく麦茶を冷蔵庫からだし、早めにグラスに注いで温くする作業に出た。
 ほどよく温くなったころに、水都が現れ徳島土産を出して来たので「そんなんよろし! ええってええって! ほんまによろしから!」と京都の遠慮文化を見せまくって何度も断る。水都が明らかにめんどくさそうな顔をしているので(これが水都のつつしみの無い点だと思っている)、ようやく受け取ると「まあ大したものはおへんけど」とわざわざ温くした麦茶とアイスクリームを出す。
「おお、アイス美味い! 外あっつかったからなあ!」
「まあ、八重はんところよりは暑うおすな」
 と、暑さを自慢していると、水都がようやく麦茶に気づいた。
「これ温うて丁度ええな!」
 ここで・・ここで素直に気遣いをしたんだ、という事をそつなく伝えれば、彼らはもっと分かり合えるだろう。
 しかし、美琴はそういう点ではとことん素直になれない性質を持っている。
 とっさに出た言葉は
「そ、そりゃ氷がもったいないですからな!」
 ツンデレ。
「ええー、そういう理由かい!」
 そして素直に受け取る水都。嗚呼、彼らはとことん分かり合えない性質を持っているのだ。

 この天邪鬼な弟の言い方と、るりの思いの両方に気づいている八重は密かに嘆息する。
「君がもっとなあ・・・」
「何なん!? 俺が何か悪い感じに!?」
 とりあえず、ペットボトルは町内会で貰ったものだという事は伏せておくことにした。

 おまけの四国
「るりがご機嫌さんねえ」
「水都さんが来てたけん、それでやろ」
「おまんら思考を放棄すんな! まだ料理は残ってるぜよ!」
 余った大量の料理の処理は、他の四国が担当している。残り後10皿。
「大阪様・・次はいつ会えるん?」