日本列島服装事情

 先日福島さんの服装事情を書いてみたので、また思いつくままに各地の服装事情を書いてみようと思います。
 ただし、あまり煮詰められなかったので、小ネタ詰め合わせ集のようになっております。

 埼玉さんの事情
 埼玉は基本的に穏やかで、機嫌を露骨に表すことはめったに無い。だが、その日は違った。露骨に浮かれていた。
「千葉、埼玉何であんな機嫌えがっぺ?」
 MAXコーヒーを受け取りながら、千葉はニヤリと笑う。少々不良じみたところがあるこの二人、よくこうしてMAXコーヒーを片手にヤンキー座りで喋っている。気が合うらしい。しかし、ちばらぎとは呼ばれたくないらしい。
「新しい服着てんべ。あれ、東京に買って貰ったモンらしいから。それでだろ」
 ああ、と埼玉の東京に対する恋情は東京が気づいてないのみの話である。よって茨城もニヤリと笑った。
 ニヤニヤ二人に見られてるとも知らず、埼玉は東京の方へ向かっていく。
「東京ちゃーん、この書類なんだけど」
「ああ、ありがとうございます。おや、埼玉、その服は・・・」
 来た来た。二人のニヤニヤが一層激しくなる。茶化す気満々で見守っている。それが仇となった。
「可愛いですね。何処で買ったんですか?」
 わ・・忘れてやがるーーー!?
「し、渋谷よ」
「へー渋谷ですか。よく似合ってますよ」
「ありがとう」
 このやり取りが笑顔で行われた事ほど、二人に恐ろしい事はないだろう。
 埼玉はくるりと振り返り、命じた。
「千葉、茨城、飲みに行くぞ」
「了解っす! 姐さん!」
「何処までもついていきますよ姐さん!」
 何も知らない東京は、「あの二人何であんな三下くせえんだろうなあ・・」等と呟き、仕事に戻った。いや、彼が知っていたらというか、覚えていたら済んだ話なんだけど。

 福井さんの事情
 福井も機嫌を露骨に表すことはめったにない。ただし、埼玉と違う意味でだ。喜怒哀楽をその眼鏡の奥の表情に浮かべる事は無く、常に冷静に淡々としている。
 そんな彼女を火の国の男らしく、情熱的に愛し続けているのが熊本である。その情熱、既に情念の域に達している。今日も雪が今にも降りだしそうであるのに、彼の周りだけ陽炎が立っているようだ。
 雪の女と炎の男が現れたのは、石川県の高名な加賀友禅の店であった。
「珍しいな。福井が和服を着るなんて」
「洋服の方が動きやすいからね。別段和服が嫌いなわけじゃないよ。少し気になった着物があったんだ」
「そんなに欲しいのならいくらでも買うよ!」
(少し気になった=凄く欲しい。・・・熊本・・何故一度は同じ県だった俺達より福井を知っている・・!?)
 こっそりと店の奥で見守る富山の胸中の声が聞こえたのか、石川が頷く。何故彼が此処に居るかと言うと、「あの二人をうらだけで接客なんて無理! 絶対無理うぇ!」と泣きつかれた為である。今日こそ石川の言う事を断ろうと思ってたのに・・くそ・・ッ。
「で、どれ?」
「これ」
 淡々と見せた着物・・・。お値段ン百万円。しかもお仕立て代は別のお品でございます。
(福井ーーー! 流石に熊本も固まってねま! 熊本、これは無理って言っても良いレベル! っていうか、石川、いつまで此処に居んだ! はよ接客し!)
「ああ、あの品に目を付けるとは・・・福井も目が高い・・・」
「ええから早よ!」
 熊本は少しの沈黙を要した。それに福井は相変わらず淡々とした口調で気遣っているらしい言葉を述べる。
「厳しいなら構わない。私も無茶は言わないよ」
「いや・・・」
 陽炎が地熱となった。
「九州男児は一度言うた事やり通すばい!」
(方言戻ってるー!)
「これ仕立ててくれんとね!」
「は・・はい・・・ありがとうございます・・・」
 石川がようやく接客し始める。完全に気合にビビっているが。
「出来たら見せに来てくれんね?」
「試着以外が見たいのかい?」
「分かっとっと! そっちば行くから着付して待っとれ!」
(もうあいつら何で会話成立してるのか分からん・・・・)
福井訳:こんな上等な着物は自分で着付できないよ。着付けて貰っても福井から熊本への移動できっと崩れてしまう。だから、君の方から見に来てくれないかい?

新潟さんの事情
 雪が降る中を平気でミニスカートで歩きながら、新潟はほうとため息を吐いた。
「どうした?」
「うん、あれ・・・」
 指さしたのはショーケースの赤いコート。
「コートならもう持ってるから、買うの迷っちまうんだ・・・。可愛いけろ、そんな高くもないけろ・・・」
 山梨が納得し、「ほうか」と流して歩き去ろうとしたが、長野の反応は違った。
「買ってやろうか?」
「え!?」
 思わず二人の言葉が重なる。
「え・・ええんけ・・?」
「クリスマスプレゼントという事で買ってやろう。山梨と折半して」
「いや、俺は出さねえづら」
「山梨と折半して」
「出さねえって」
「山梨と折半」
「いや、出さね」
「あの・・気を使わんでええろ?」
 新潟に逆に気を使われた事で、金にシビアで名高い山梨も折れた。かってのライバルだ、これぐらい買ってやろう。30%オフだし。
 決定した所で長野の顔がサディスティックに歪んだ。まだ二人とも気づいていないが、確かに。
「その代り、クリスマスにはあのコートで」
「サンタの格好!? やる! やる!」
「ほう、そうか。やるか。」
「やる!」
 長野の笑みが深くなる。
「やるのソリだけどな」
「ソリ・・・」
 新潟が固まった。
「山梨、行って来い!」
「待ってええ、行(え)かんでくれええ!」
 とっさに財布を持って走ってしまったが、この後如何行動すべきか?

 三重さんと静岡さんの事情
「愛知さん、こないええもん、買って貰てええの?」
 嬉しげに顔を綻ばせる三重に、愛知は相変わらずダンディに返す。
「有効な金の使い方だぎゃ」
「ありがとう! うち、大事に大事に着るわな!」
 ブランドもののコートを買って貰った三重がはしゃぐのを、愛知も微笑して見守る。
 そんな二人を静岡が見つけたのは、12月の始め、名古屋でであった。
「あ、良いなー! 三重姉ちゃん買ってもらったの?」
「うん! もうえらいええもん買うて貰ろてん!」
 路上に構わずはしゃぎまわる二人。静岡は何気なく愛知に言う。
「あたしには無いの?」
 リップサービス半分、本音半分と言ったところか。まあ、典型的ボケである。
「ああ、そうだわな」
 しかし、愛知はカード入れを取り出した。まさか、まさか本当に・・・!
「ほれ」
「・・・何これ」
「中日ドラゴンズ優勝記念カード」
「何に使うの?」
「愛でる」
 貴重な物ならいくらサッカー派の静岡でも喜んだだろう、しかし、そのカードはあまりに出回りすぎていた。愛知県民なら三、四枚持っていても普通と言うほどに。
 目の前では「愛知さんええもんくれたねえ」という三重の笑顔。
 その晩。神奈川の家に電話がかかる。
「おー、何だよ。え? 高い服買うから俺んとこ着たい? お前もようやく見る目出てきたじゃねえか。とっておきのスポット教えてやるよ。は? 何で奢ってやるんだよ。ありえねえじゃん。え? 何でマジ怒りしてんだ? ありえねえっていうか・・・」
 ちなみに三重さんが買って貰ったコートは20年間大事にされた為、着る前に色褪せてしまいました。

兵庫さんの場合
「大阪ー! 服買って服! 高島屋で欲しいブラウスあんねん!」
 珍しく兵庫に愛想よくされたら、そんな話でした。
「はあ? 何で俺が買うたらなあかんのじゃボケ」
 府知事と大阪市長のダブル戦が終わったばっかりで忙しいというのに。
「選挙終ったらパーッと何でも欲しい服買うたる言うたやん。その代りコピー機貸したで」
「・・・・・・・・言うたっけ?」
「コピー機借りる時言うとりました! しかと聞きました!」
 ・・・・実は覚えてます。あの時は忙しすぎてハイになっていたというか・・・ハイになっていたというか・・・ハイになってました・・・。
「ナンボすんの?」
「言っても断らへん?」
「その前置きが出る時点で既に嫌や!」
「一万八千円」
「リアルな金額出てきたでおい! ちょっと待とう! 冷静に考えよう! 俺如何考えても割にあわんやろ!」
「コンビニに行かなかった己を恨みー。女に服の一つも買うたげへんで、男と呼べるんか!?」
「呼べるわ! 服買わんでも俺は日本男児です! せめて3分の2出せ!」
「えー、4分の1」
「3分の2!」
「半額!」
 値切り合戦を見に来た滋賀が、「遊んでる余裕あるみたいやから仕事置いていきます」とまた大量の仕事を置いて行ったのに気づくのは、一時間後の事である。

 島根さん、岡山さんの場合
 鳥取が煌びやかなシャツを見て素直に言う。
「相変わらず可愛らしいお召し物ですね・・・」
「やっぱ分かるー? 島根嬉しいわー」
 かなりのいい年なのだが、自分の事は名前で呼ぶ島根県。すいません。
「何処で買うの? そういうの?」
「え、岡山いつも制服じゃない?」
「この制服はコスプレだもん。一般人ばかりの路上なんかでコスプレするのはレイヤーの倫理的に不可よ!」
「え・・・それでは、如何して私(わたくし)達の前では制服を・・・」
「いっつも先回りして着替えてんの。やっぱり戦闘服は制服じゃけえね」
 女子トークを聞いていた広島がぼそっと呟く。
「手間かかるだけじゃ」
 鋭く聞きつけた。
「広島、アンタお洒落をバカにする訳?」
「いや、それお洒落じゃないじゃろ?」
 広島(一般人)にしてみれば、それは仮装であって服ではない。悪気があるわけでも、不快に思う訳でもないが、ない。
「はあ!? この服を作るためにどんだけ労力かけてると思ってるのよ!? 血が滲むほどミシン踏むのよ!?」
「そうねえ、広島、女性の服にケチつけるのは感心しないわー。島根が服を選んでるの見たら吃驚するわよ? 選ぶ時間」
「へー、そうけえ」
 よう分からんのとスポーツ新聞に視線を戻そうとしたが、島根がそれを奪った。
「興味ないんか? ええ?」
「じゃって・・・じじいの服選ぶの見たって・・・」
 そう、先ほどうっかりと女子と書いてしまったが、島根さん、男です。ミニスカートですが、男です。鳥取が置いてけぼりをくらってオロオロしています。
「誰がじじいじゃコラア!」
「いや、ホンマ、お爺ちゃんの服選ぶの見たって」
「丁寧に言え言うとるん違え! 男だから興味が無いってか? それとも年寄だから興味ないってか?」
「そういえば、広島、愛媛(男)を嫁って言ってたわね・・」
「年寄だから興味ないってかーーーー!」
 数時間後、何故か上半身のパーカーを引き裂かれ震えているヤクザが居る、との通報があり、交番まで愛媛と山口が迎えに行った一幕があった。鳥取には止められなかったようだ。

 徳島さんの場合
 ミカンを取りに来いと言われたので、取りに行く事にした。愛媛は本当にミカンばかり作っている。冬場のコタツの友に最適なので、文句は無い。
「徳島って、「お帰りなさいませご主人様」とか言わんの?」
 既にちゃんちゃんこを着込んだ愛媛に冷たい視線を送った。文句はある。
「何で言わないけんの?」
 愛媛は逆に驚いたようであった。
「言うもん違うの?」
「違うわ」
「じゃあ、何でメイド服着とんの?」
 そう、徳島の恰好は春夏秋冬メイド服。そう言われても仕方ないっちゃ仕方ないのだが、徳島は気に食わなかった。
「仕事しやすいからに決まっとるきん」
「え、仕事する時に着とるん?」
「怠けてたら何の意味があるメイド服?」
「趣味」
 即答された瞬間、確かに青筋が浮いた。
「メイド服は労働着じゃ! 洗いやすく、汚れも目立たず、それでいて動きやすい! エプロンドレスをなめんな!」
 完全に気圧された愛媛に続ける。
「愛媛の方こそ、こんな夕方からちゃんちゃんこってどんだけダラダラしとるん!?」
「だって一番ダラダラできるけん・・」
「まだ夕方やのにダラダラしててどないするん!」
 軽い質問が思わぬ大災害に拡大してしまった、と思うも後の祭り。ヒートアップした徳島は怒鳴り続ける。
「夕方やったら夕食の用意に片付け、風呂を磨いて、布団敷いて、新聞チェックして、いっぱいする事あるき!」
「全部ちゃんちゃんこでやろうと思えばできるけん・・・」
「そんなたるんだ気持ちでやっとるからこんな部屋汚いんじゃろが!」
「べ、別段汚なないよ・・。先々週掃除機かけたし」
「掃除機は毎日かけるもんじゃあ!」
 あ、キレた。
「僕おかしくないですか?」
「・・・・に、似合っとるけえ・・・」
 メイド服で出迎えた嫁(男)に、引きつった笑みを浮かべる広島(服装にトラウマ植えつけられ済)であった。

 佐賀さんの場合
 パンクファッションなのに目立たない。
 これはかなり悲しい事じゃなかろうか?
「じゃあ普通の服着たら良か」
 あっさりとした福岡の言葉に、一瞬納得しかかったが。
「それはもっと目立たなくなるだけじゃなか!?」
「あ、そうか!」
 言われて気づいたらしい福岡を恨めし気に見ると、ごめんごめん、と両手を振られた。
「ばってん普通の服着たら良か」
「長崎なんでその結論に至ると!? 今否定されたばっかりたい!」
「佐賀が目立っても・・・」
「そんな事言うもんじゃなか! 佐賀にだってええとこあるばい!」
「福岡・・・!」
 感動しかかる佐賀だが、具体的には? と振ってきた長崎にあ、ええと・・・その・・・と言葉に詰まったので感動が覚めた。
「ばってん、イメチェンは大事だと思うと」
 宮崎がフォローをする。良い子だ。
「大分がシャネルのスーツ着て、ハイヒールで颯爽と歩いとったら、別人と思われっと」
 地味に失礼な子だった。大分は確かに常にだらっとした格好をして、「よだきい(面倒くさい)」が口癖だが。
「鹿児島は如何思っとっと?」
 今迄黙っていた鹿児島に声をかける。熊本は和服姿の福井の写真を見続けている。
「そうじゃの。まず、口紅が青いのが女らしくなか!」
「男らしか口紅ってどんなん!?」
「それぐらいじゃ! 男は女の恰好如き細かか事をぐじゃぐじゃ考えるもんじゃなか!」
「それコイツに言ってやり!」
 全く写真から視線を外さない熊本を指すが、全く動じない。
「っていうか、バンドとかやるん? その恰好」
 宮崎の素朴な疑問に「そ、そがい大したもんじゃなか!」と答えたので、全員「ああ、やってるんだ」と納得が言った。
「そしたら沖縄に聞いてみたら良か。あそこは芸能人が特産物たい」
「そ・・そうか? 聞いて・・見るか」
 早速携帯を取り出し、メールを打つ。かなり切羽詰まっていたようだ、気持ち的に。
 数日後、イメチェンは成功した。エイサーの衣装はとても似合った。しかし、沖縄県民と間違われるという認識のされ方だった。幕。