奈良の恥ずかしい話


「うがああああ! 何で美術館ってもっとぱぱっとできへんねん!」
 大阪府庁の改装計画の書類が床に散る。
 そして拾う。
 大阪が頭を悩ましているのは、府知事が言い出した大阪府庁を美術館に改装する計画だ。
 大阪府庁は建築美が素晴らしい。モダンながらも重厚な造りは見る者の心を安らがせる。
 だから、大阪市長が無駄だと言い切る美術品を置くには最適だと思ったのだ。
 ちなみに石川が「美術品の保存費が・・・・無駄!?」と唖然としていたが、何か着眼点が違う気がする。
 しかし・・・実際には美術品を展示するには湿度や気温など、重要な問題があった。
 しかししかし、この美術館計画が決定すれば、庁舎をWBCに移転する計画にもプラスになる。
 何で移転する必要が? とかそういう事は考えない。岡山が福島を連れて「インテックス大阪のすぐそばに庁舎!? 何考えとんじゃわれえ!」と怒鳴り込んできたが、そこも考えない。大阪市長は元よりオタクはバカにしているから、同人誌即売会とかは考慮しなくて良い方針だ。
 しかししかししかし、ずーっと見積書と睨めっこしているのは疲れた。飽きた。吉本見に行きたい。テレビでも良い。
「大阪さん、奈良さんが来はりましたけど」
 そんなうだうだとした空気の部屋に、ノックと同時に声がした。しゃがんで書類を拾っていた姿勢の儘、「入れたれ」と答える。
「あ、でも兄貴が手作りのお菓子持って来たとか言い出したら、俺は急に腹痛になるから。大丈夫、早いか遅いかの違い」
「じゃあ遅くでお願いします」
「ちっ、その程度のネタでは俺は笑わんぞ。何かこう大爆笑するようなネタを持って来な意地でも笑ったらへんからな」
 即座に職員とこのやり取りができる大阪クオリティ。
「いや、賄賂の告発があったでしょ、こないだ。あれについての件で」
「ああ、あれかあ・・・」
 あれ、というのは、奈良市における市議会の汚職事件である。
 汚職があった、と告発があったのだが、その全貌を聞くと【何故か目を逸らして俯き、言葉を濁す】というリアクションしか帰って来ない為、奈良本人を呼ぶことに至ったのだ。
「もうそんな時間か」
「そうでんな。二時間ほど籠ってはったから」
「昼飯食ってない・・・」
「あ、入ってくださーい!」
「無視か!」
 職員に入れたツッコミを、数分後、彼は大いに後悔する事になる。

「どうしたん? 食べへんの?」
 テーブルの上に広げられた重箱。
 向かいのソファには和服の眼鏡の男。
 重箱の中には、泡がぶくぶくいっている紫色の物体。
「兄貴・・これ・・これ何・・?」
「柿の葉寿司」
「嘘を吐けえ! あれか! 暗殺か! 汚職をもみ消すため俺を暗殺か!」
「いやー手作りしたらちょっと売ってるのとちゃうようになったけど、何も悪い物入ってないで」
「じゃあ何で悪い物ができとん!? ちょっとお! 手作りの物持って来たら腹痛なる言うたやろが!」
「すんまへん。私も食べ物やなくて別の用途に使う物やと思って」
 既に2メートルくらい下がっている職員を恨みながら、とりあえず重箱を横に置く。
「食べへんの? ご飯まだ言うてたやん」
「兄貴! 【横に置く】ったら【横に置く】!」
 不満げな和服の男―奈良の視線を跳ね除け、本題に入る。入らなければ胃が危ない。それだけでなく、きっと食道とか腸とかいろいろ危ない。土地の具現化である自分達が死にはしないだろうが、死にそうにはなる。
「で、言うてくれるんやろな」
「・・・・あの事?」
「汚職事件」
「・・・・何を聞いても僕に失望せえへん?」
「汚職事件起きてる時点で失望はしてるわ」
 それも尤もか、とため息を吐くと奈良は話し出した。
「奈良市議会の議長選でな、元議長が賄賂申込みをやりよったんや」
「それは知ってる。賄賂を頼まれた奴が大阪地検に告発に来たからな」
「うん。でなー・・・あのー・・・物の価値とは人それぞれでな」
「ええから、賄賂に幾ら贈ろうとしたんや。それだけがはっきりせえへんのんじゃ」
 またため息。そして、掌を広げて見せる。
「五百万か」
「ちゃう」
「五十万か」
「ちゃう」
「え・・・? まさか五万とか五千円・・・?」
「ちゃう・・・・」
 がっくりと項垂れた儘奈良は言った。
「米、五年分」
 ・・・・・・・。
「ぎゃはははははははうわはははははは!」
 大爆笑に襲われた大阪に、奈良は項垂れた儘、説明する。
「最初は二十万円言うてたらしいねんけどな、受け取って貰えへんから・・・米を」
「何処の貧しい頃の日本やねん! え!? 議長の席が米五年分!? 米!?」
 未だ爆笑が治まらない。だって米だ。米の代わりに議席っていつの時代の農村の話だ。それを県庁所在地で汚職、米で。
「やった本人も恥ずかしい言うてるけどな! 僕らかて恥ずかしいんや!」
 自棄気味に叫ぶ奈良に、大阪は多い被せて言う。
「しかも断られて相手に告発された!? 完璧すぎるやろ! ネタやろ! しかも元議長!?」
「もう・・・笑いたいだけ笑い・・・。僕らがはっきり言えへんかった理由も分かるやろ・・・。ダサすぎるやろ・・・・」
「今日のトップニュース決まりやな!」
「やな、ちゃうわ。何も嬉しないわ」
「まあ、報道してほしくなかったら関西広域連合に・・・」
 調子に乗る大阪だが
「じゃ、そういう事で」
老人と言うのは大概の恥では怯まぬものである。完