和歌山ですけど、チャラくて何が悪いのか分からへん、みたいな


 新大阪駅。
 数多の新幹線が走り、各地遠方と関西の出発地点、到着地点である。
 京都駅もそういう意味ではそうなのだが、その場に居た彼が来るのはこちらが家から近いだろう。
 故に、大阪はあっさりと旅行鞄を提げた彼に声をかけた。
 十代後半から二十代前半であろう、派手な色のシャツに茶色のジャケットを羽織った彼は、あっさりと振り向いた。
「大阪兄やん」
「和歌山、どっか行くんか?」
 茶髪に染めたてらしい髪を軽くいじると、これまたあっさりとした返答。
「ああ、東京にちょっと呼ばれてるカンジ。新幹線乗るとこやねん。大阪兄は?」
「俺は仕事終わり。今日は昼までやってんよな。珍しいでこんなん。時間あんねやったら茶でもしばかへん?」
「時間あんまないから、自販機でいい?」
「ええで。奢ったる」
「マジで? 超嬉しいけどええん?」
「缶ジュース一本くらい構へんがな」
「あ、じゃあいろはす頼んでええ? みかん味のヤツ」
「さりげなくペットボトルを選んだな。まあええわ」
 がこん、と自販機が鳴る。
「マジ感謝するわ。大阪兄。東京にいきなり弾丸来いって言われて金用意する暇なかったってカンジやってん」
 まあ、そういう口調ではなかったろうが、そこは突っ込まないことにした。
「まあ、俺の事兄(にい)とか尊敬してくれんの和歌山だけやしな。このぐらい兄貴面するわ」
 和歌山は暫しんー、と考える仕草をした。
「何や?」
「ああ、別段尊敬とかじゃなくて、若さをアピール? みたいな? だって近畿で徳川御三家だからって俺までおっさん扱いとかマジあかないしょお(ダメでしょう)」
「……」
「あ、ヤバい、そろそろ新幹線出るから行くわ。またな」
「お前絶対土産買ってこいよ!」
 大阪の声が聞こえたか聞こえないか。とにかく、和歌山は東京行の新幹線に飛び乗った。

 そして仕事も終わり、東京が相変わらずの媚びない態度で眼鏡を外す。
「和歌山、今日の宿泊地はお決まりですか? まだでしたら手配しますが」
 軽く頭を掻いての返事。
「とりま、池袋(ブクロ)?」
「池袋? 可能ですが、都庁の近くでも取れますよ」
 不審げに眉を顰める東京に軽く手が振られる。
「ああ、ブクロが一番東京のカノジョと埼玉のカノジョに一番会いやすい的な」
 東京の眉がますます顰められる。彼とて歌舞伎町を抱える身であり、吉原だの品川宿だの遊郭もあったが、堂々と二股をかけていると言われて「ああそうですか」で済ませるほどドライではない。
「彼女が二人いるんですか?」
「いや、二人とかありえんしょ」
 更にガツンと言葉のパンチ。
「47都道府県全部に一人か二人いるし」
「は?」
 更に行状のアッパー。
「後、女の県は全員彼女候補やな。福島以外」
 こいつ……江戸時代将軍渡されたりして、一応は立てていたが、が、が。
「何で福島さんだけ候補ではないのですか?」
 急に和歌山は顔を暗くした。
「福島と酒飲んでる時に、「アンタ彼女候補っすねー」とか言ったら「すまねけっじょ、それは考えられん」って断られたんやけど」
 ああ、彼女の固い性格ではそうだろう。
「帰り道、北海道がいきなり道端で待ち伏せしてて「お姉ちゃんをいっぱいいる彼女の一人にするつもりなの? それはお姉ちゃんが可哀想だと思わないかな?」とか全く笑ってない目で言われて―後は思い出したない」
 北海道……待ち伏せとかなんとか、ツッコミたい事が多すぎるが、彼らの姉弟関係にこれ以上触れるのはやめておく。凍傷しそうなので。
「その彼女さん達には複数の女性とお付き合いしている事はお伝えしてるんですか?」
「言ってるに決まってるっしょ。みんなそれでええて。じゃあ、メールしないとあかないから帰るわ。お疲れっしたー」
 閉まった扉。
 東京は様々な言葉を飲み込み。
「チャラチャラしやがって……」
その一言だけで済ませ、新たな仕事に取り掛かった。

 時は流れてその深夜1時。
「やれやれ……疲れた」
 新宿から山手線に飛び乗って池袋へ急きょの出張を命じられ、帰るのは深夜1時。それくらい言っても構わないだろう。
「えー? マジ? ホントにい?」
「やっばいそれー! 超ウケルー!」
 うるせえな。
 思わずコンビニの外の女二人と男一人の三人組を睨みつけてしまったが、これも許容範囲のはずだ。疲れてるから。
「ホンマホンマ。夜とか真っ暗ってカンジ?」
「えー、じゃあ危ないじゃん」
「危ないから車乗って行くっしょコンビニって。駐車場あって当たり前っしょ」
「コンビニに駐車場とかマジヤバいんだけど」
 ……ああ、なんか昼に会った彼女が二桁居るヤツがいるな。人が仕事してる間に何やってんだテメエ。
「和歌山くーん、ゴッメン、ペプシ飲みたくてー」
 コンビニからまた女が一人和歌山の元に向かった。つまり、昼間言っていた数より増えている。
 テメエ、人の土地で何してんだテメエ。でも顔合わせたくないぞテメエ。
「お、東京やーん!」
 声をかけられて思わず睨みつけ、もうよそう。
「彼女さんとお楽しみですか」
「マジお楽しみってカンジ。それよりな」
 その時の和歌山の目はこれ以上ないほど光り輝いていた。
「コンビニがこんなにあるとかマジパないねんけど! 東京マジパない!」
 ……。
 何だろう、この許したくなる感じ。

(和歌山県 コンビニ店舗数全国46位 2009年)