埼玉のところに、幼馴染が愚痴りに来ました。


※この政治解釈は作者の主観が大いに含まれており、これが各都道府県民の総意である訳ではありません。また、政治思想の押し付けも意図しておりません。こんな奴もいるんだなあ、と軽い気持ちでご覧ください。

 駅からほどほどに近い一軒家、同居人はトイプードルのネギと雑種猫のたま、近所との密接すぎる付き合いもなく、土用の午後には自宅に帰ってティータイム。
「あたしって幸せよねえ……」
 埼玉と云う土地の具現化は、リボンと縫い包みで飾られた部屋でほう……と息を吐く。
「ここに東京ちゃんが来てくれたら最高なのに……」
 埼玉の小さな、失礼、平たい、失礼、ぺったんこなあの、もうすみません、胸を押さえ、またため息。
 彼女の想い人はいつも忙しい。
 片思いを続けて数百年、未だに気付かない彼は鈍いのか。
「ううん、純粋なのよ!」
 関心が無いのでは? という疑惑まで浮かんだが、それを打消し、想い人の東京の姿を瞼に浮かべる。
 東京ちゃんは昔からちょっと俺様系で、強引で、そういうカッコよさがあったのよね。
 今日も、書類にコーヒー零した千葉に「何をやってるんですか。時間も書類も全て無駄じゃないですか」とかドスを利かせていたわ……。
 ちなみに千葉は「わりわり、コピーすっから」と軽く流していたが、そこは気にしない事にした。
 嗚呼……東京ちゃん、あなたは今何を……。
 ピンポーン
 そのチャイムと共に彼女の目が光った。
 一瞬の動きで出しっぱなしのパジャマを片付け、髪をとかしてツインテールにし、インターホンに出る。
 そこにはやはり
「埼玉、少しお話したいことがあるのですが、良いですか?」
「こんばんは、東京ちゃん! ちょっと今散らかってるから待ってねー」
彼女の正確過ぎるセンサーはいったいなんなのか分からないが、ちょっと待っての間に3分で化粧をやりとげ、玄関を開ける。男性諸氏に説明すると3分でフルメイクと云うのは、元気玉を一人で行うのに等しい必殺技である。
「東京ちゃん、遠慮しなくて良いのよ。いらっしゃいー。散らかっててごめんね」
 トイプードルのネギも嬉しげに吠え、猫のたまものそのそとベッドから這い出てくる。
「すみません、少し愚痴めいているのですが」
「良いのよ! 東京ちゃんだって愚痴くらい言いたいときもあるわよ!」
 むしろ、その相手にあたしを選んでくれて嬉しい! という思いは言葉にせず、スーツ姿の彼を迎え入れようとした。
「おい、入って良いってよ」
「お、女の子のお宅訪問やん! お邪魔するでー。あ、これ土産の堂島ロールな!」
 後ろに居た大阪の姿。
 彼女のフリーズが終わるまで、一分かかったのだった。

「それで、愚痴めいていて申し訳ないのですが」
「う……うん、良いのよ」
 円形のテーブルに座り、紅茶とロールケーキ囲む三人。
「俺んとこの大阪市長やねんけどな、国政進出するって意気込んでんねん」
「それに、私が嫌な予感しかしないという訳です」
「……そう」
 紅茶を飲みながら、埼玉は笑む。若干引きつって。
「ええ、まず、先日の増税案が、衆議院で可決された事について、大阪市長は、「日本の政治は終わった『増税しない』といって民主党は票を集めた」と言っているんです」
 東京も紅茶に口を付ける。
「その通りやろ」
 大阪は得意げに堂島ロールをがつりと食べる。
「そして、「当面の赤字財政改善のための増税の必要性を(国民は)分かっている。選挙で問うたら良かった」とも言っているのです」
「その通りやろ」
 大阪は得意げだ。
 埼玉はそれを見て一言。
「結局どっちがやりたいの?」
「え?」
 意外そうな顔をする大阪に、東京はまたため息を吐く。
「そうなんですよ」
「え、いや、だから、増税の必要性を国民は分かってて、せやけど、民主党は増税しない言うて当選したから、あかんやろ!」
「もう、日本語が無茶苦茶です」
「あかんやろしか分からないわよ」
 きょとんとする大阪。
「ちなみに、これ、初めて言われたような顔をしていますが、本日8回目です」
「末広がりね」
「そうですね」
 お前が8回も言わせるから、東京ちゃんが埼玉まで来るハメになったんでしょうが! でも東京ちゃん来てくれて嬉しい、これで大阪抜きなら良かったのに! ……あら? あたしも矛盾した?
「えー、といや、だから、投票! 投票したら絶対みんな増税に賛成する!」
「根拠のない宣言はあなたの悪い癖です」
 そして空気を読まないのもね! 女の子の部屋に押しかけて、男二人で政治討論する!? 普通!?
 いや、あたしも参加できるわよ? 県だもの。でもね、そういう問題じゃないの。東京ちゃんと二人でロマンティックな会話をしたいの。こないだ岩手ちゃんがとつとつと語っていたくらいロマンティックになれるの! セロ弾きのゴーシュばりにロマンティックになれるの今の状況は!
「そして、賛成しなかったら如何するのですか?」
「そんなんありえん!」
「バカかおめえは」
 あ、東京ちゃん、江戸っ子弁に戻ってる。これはレア! あら、っていうか完全にあたしを蚊帳の外に置きだした?
「誰がバカやねん! せやかて、こないだ、そこら歩いてたおばちゃんに聞いたら、「増税せなやっていけへんねやろ?」言うてたで!」
「それは」
「あ、勿論俺の名前と身分は伏せて! 当たり前やろ!?」
「そうですね。当たり前ですね。で、その女性は」
「おばちゃんは」
「どっちでも良いです。新聞やニュースをきちんと見る方ですか?」
「え!?」
「ネットで2ちゃんねる以外の政治ニュースを見る方ですか?」
「え……」
 もう詰まってるんだから帰りなさいよ。大阪のおばちゃんの強さなら、隕石衝突しても生きていけるわよ。新聞もニュースも観なくても生きていけるわよ。
 言葉に詰まっていた大阪だが、次の瞬間、東京の肩にがしっと手を置いた。
「俺ら、仲良しやろ? 国政に参加してもええやん?」
「まあ、仲が悪くはありませんが……市長と都知事は。そうですね。それは置いておいて。少し飲み直しますか」
「そやな」
 飲み……? 飲んでた……? こいつら酒飲んであたしの家に押しかけてきた? しかも何かだらだら喋って結論の出ない儘また飲みに行くの? あたしは? ねえあたしは?
 ブチ
 埼玉の何かが切れた。
「あんたらの態度がそんなんだからねえ……政界が増税しまくりの」
 大声。
「ドバカばかりなのよーーーーー!」
 その時、猫のたまは慌てて別の部屋に逃げ出し、犬のネギはきゃんきゃんと怯えた吠え声を上げた。
 完全に座った眼の埼玉に、東京と大阪は酔いも吹っ飛び硬直する。
「そういう訳だから、あんた達は帰って―」
 超大声。
「寝ろーーーーー!」

 翌日、やらかした事に頭を抱えて、ろくろく眠れず東京に出勤した埼玉。
 ああ、昨日のあたしを誰か殴って止めて……。
 大阪は如何でも良いの。東京ちゃんに怒鳴りつけるなんてあたしってばあたしってばあたしってばあたしってば。
 激しい自己嫌悪に襲われ、ガンガンと頭を壁に叩きつける。
「埼玉」
 東京の声がした。
「ごめんね、東京ちゃん、あたし、今見せられる顔が……」
「そうでしょうね! 凄い血が出てますよ!?」
「そういう問題じゃないの!」
「いや、血が! 額から!」
 肩を掴まれて、埼玉はようやく振り返った。
 そこには心配そうな顔をした東京の顔。
「昨日は―」
「ええ、如何にも酔っ払って記憶がないのですが、埼玉の家に行っていたようで、夜にアポなしで女性の家に上がりこむなど、失礼しました」
「そ、そうなの!」
 ぱあっと顔が明るくなる埼玉。しかし
「あの、怪我の手当てをとりあえず……」
ぽたぽたと床に落ちた血に、東京の現在のドン引きの理由を知り、やはり今夜も眠れないのであった。