対鹿児島うどん戦


 混乱極まる日本列島。
 今日も総選挙に向けて、各都道府県の土地の具現化達も、大阪に集まり、仕事に駆けずり回っていた。
「飯にしょっ! 飯に!」
 ヘビースモーカーの青森の灰皿が火山のようになり、インスタントコーヒー消費率の高い奈良のコーヒーカップが茶渋だらけとなり、両方とも高い石川の周囲に至っては煙草とコーヒーの臭いまき散らしエリアになった頃の提案である。
 早朝に大阪に集結して、選挙に備えての活動に煮詰まっていた各都道府県が、この時ばかりはいつも雑に扱っている大阪を褒め称えたのも仕方あるまい。
 ご飯だ! ご飯だ!
 出されたのが、うどんと白米という、うどん定食であっても、異を唱えるものなどいない!
「オールでんぷんですか」
 うん、居たけど。それでも普通に食べているんだから、いいんだろう、東京も。
「めっちゃ消化ええし、腹いっぱいになるし、美味いねんぞ! 文句あんねやったらあの真っ黒の墨汁みたいなうどん啜っとれボケ!」
「武蔵野うどんはつけ麺なんですよ。あれを飲むわけではありません」
 いつものどうでもいいうどん論争が始まったが仕方ない。大阪が東京に勝つために様々なケチをつけるが、論破されていき、最後には「せやかて東京のあんな真っ黒の汁したうどんなんて食えるかい!」と捨て台詞を吐くのはいつものことなのだ。
「まあまあ、この出汁はうまかね」
 ごくりと一口出汁を飲んだ鹿児島が割って入る。火が付かなければ穏やかな男なのだ。鹿児島は。火が付くまでがめっちゃ早いだけで。そして火が付いたら大噴火なだけで。
 しかし、今回の大噴火は、鹿児島が原因であったが、彼が噴火したわけでは無かった。
 次の一言で、周囲が一斉に噴火したのだ。
「宮崎、これ煮直してくれんね」
「はいよ」
 そのままうどんのどんぶりを持って去っていく、南国娘。
 煮直し……?
 周囲がポカンとする。いや、だって、大阪のうどんはあれで十分茹でられていたはず……?
「あ、あの、鹿児島様っ」
 おずおずと鳥取が声をかける。
 大人しく、控えめな彼女も、流石に今のは「え……?」となったらしい。
「女性ですけど、そういった雑用をすぐにやっていただくのは、ちょっと……」
 あ、そっちか。そっちね。
 確かに鳥取県は男女平等度指数ナンバー1。気になっても仕方ない。気が弱いというか、押しの弱い彼女が、でかくて熱い鹿児島にこういう事を言うのは、相当勇気がいったはずだが。
「じゃっどん、うどんを煮直すくらいできんと、嫁にいけもはん」
「そ、そげですけど……」
 不思議そうに返答する鹿児島。確かにそれもそうなのだが。論点が違うというか……。
「鳥取ちゃん、ある程度の細かな事は、やるのが女子力高いわよ」
 そこに割って入る埼玉。彼女は男女平等指数が47位である。まあ、何事も不平ばかりの女性というのは、確かに女子力が低いと言えば低いが……。
「で、ですが……。女性も自立せんといけんと……」
「気の利く女の方が可愛いじゃない」
 そこに更に割って入る者があった。
「喧嘩すんなや。どっちも胸が平たい仲間やないかい」
 一瞬だった。
 大阪の顔面に埼玉の鉄拳がめり込み、更に背後から鳥取が召喚したらしい、恐ろしげな妖怪達が襲いかかるまで。
 男女平等は大きな課題だ。それに対する認識も女性によって違う。
 だが、共通してることがある。
 貧乳を目の前で指摘してコケにするな。
 大阪の断末魔が響く中、埼玉と鳥取が握手する。何かを超えた戦士の友情。そんな類のものができた。
 素晴らしい。秋田、福岡、静岡の日本三大巨乳の視線が辛そうだが。
「鹿児島、うどんできたとよ」
 そこにようやく宮崎が帰ってくる。ちなみに彼女はCカップである。どうやら自分の分も煮てきたらしく、お盆にはどんぶりが二つ。
「おお、ありがとごわした」
 やや大げさな喜び方をして、鹿児島がうどんを啜ろうとしたその時だった。
「何やそのうどんは!」
 香川が血相を変えた。
 煮直すと聞いた時から嫌な予感はしていた。
 しかし、しかしだ。
 このくたくたに煮込まれたうどんはなんだ?
 うどん県たる自分への挑戦かとばかりに水を吸い、もう切れる一歩手前ではないか。
「うまかよ?」
 見た目が小学生の香川が血相を変えた如きでは、薩摩隼人は動じない。
「あんな固いうどん食えん」
 言ってることはむちゃくちゃ軟弱だが。
「うどんは! こしが! こしが! ないと! うどん! とは! 言えん!」
 興奮しすぎて一句ごとに切っている。全身全霊うどんにかけている少年は、この暴挙、逃してなるものかとばかりに目を血走らせ、何度もどんぶりを指さす。
「こし? いらんいらん、無い方がうまか」
「ふしゃあああああ!」
「落ち着くべ! 香川!」
 今にも襲い掛からんばかりの香川を抑える秋田。彼女も稲庭うどんで、日本三大うどんの聖地の女! 鹿児島のこし皆無のうどんを、ないわーという顔で見ている。
「鹿児島はうめえうどんを知らんからそんなこと言うんだべ。おらがうめえうどんこしらえてやっから、それ食(け)!」
 笑顔。
「いや、気持ちはありがたか。じゃっどんいらん」
 暗転。
「おら……おら、また身の程もわきまえねえで……、うじゃてやつだと思われたべ……。うわああああ、三途の汁で顔洗って出直して来るだ……!」
「やめろ! おめの気持ちはありがてえって言われてんべ!」
「わだすに食わしてけろ、そのうめえうどん!」
 テンションが地の底に沈むのをフォローする山形と福島、大変だな。いつも。
「愛知、なんか言ってやれ!」
 日本三大うどんの最後の一人、きしめんの愛知。
 大騒ぎしている中にも入らず、ダンディに白米にコーチンふりかけをかけていた彼が、口を開く。と、いうか勝手に騒いどいておっさんに収集をまるなげするな。とも思っているようだが。
「鹿児島、そんな食い方する事にゃあでよ」
「いや、おいは固いうどんは―」
「俺の嫁が作りゃあて」
 伊勢うどん。
 徹底的にこしをなくした極太うどん。そしてネギと濃厚なたれ。
「うまか! 三重、これほんなこつうまか!」
「喜んでくれて嬉しいわあ」
 三重の伊勢うどんで、ようやく和んだ場だが。
「近畿にもおいの口に合ううどんがあるんじゃな」
「三重は近畿じゃにゃあ、東海だがね!」
 また新たな波紋を生むのであった。