馬台国と大和朝廷

 注意:歴史については諸説あり、この小説が正しいとは断言できません。
    やまなしおちなしいみなしnotBLなやおい小説。
    参考文献「研究史 邪馬台国の東遷―大和朝廷誕生の謎を解く―」(著:安本美典 刊:新人物往来社)


 平城遷都1300年祭終了。
 労うという名目で、各都道府県が奈良に押しかけてきたのが数時間前。
 全国が来たのではないが、総勢十数人ほど集まられては、部屋は満室である。
 畳の上の盆に並べられたご馳走も少なくなり始め、代わりにビールや日本酒の空き瓶が転がり始める。
「おじいちゃん」
「お兄ちゃんやってば」
 日本酒で赤くした顔を乙雨にてちてち叩かれ、苦笑しながらいつもの誰にも受け入れられないセリフを言う。
「おじいちゃんは何で眼鏡かけてるんー?」
「お兄ちゃん目え悪いねんー」
 和服の襟をくいくいと引っ張られる、保護者の天海は・・と視線をめぐらすと、日本一酒の弱い三重県は既に畳に倒れ伏していた。
「そういえば、八重兄貴は昔っから目が悪いやんな!」
 大阪府こと水都が横から割って入る。既に相当酔っているらしく、足元が覚束ない。
「眼鏡外してみてやー」
「ちょ、水都待ち・・」
 抵抗空しく、べろんべろんに酔っ払った巨大商業都市は、持ち前の馬鹿力で八重の眼鏡を奪い去った。
「あ、こら・・・」
 眼鏡を奪われ、目をしばたたかせていると、「おー、ホンマ美琴そっくり!」という水都の呑気な声が響く。
「水都さん返したげてー」
 発端の乙雨が慌てるが眼鏡が返ってくる気配はない。
 やれやれ・・と目をこすり、お猪口を手に取ると、ふらあり、と寄ってくる者があった。
「そない似てはりますー?」
「美琴、君酔ってるやろ」
 そういえば美の持ち込んだ泡盛を呑んでいたな、と思いながら見えない目をこする。
「すげー似てんじゃん! 流石兄弟だな!」
「そっくりばい!」
 向こうで弘明とまつりの声がするが、生憎と見えない。
「似てはりますか?」
 突如、片目に指が押し当てられた。ぐっと顔を近づけられたので分かる。
「美琴、やめ!」
 思わず美琴の手を振り払うと、大声に吃驚した各県が振り返った。気配がした。
 慌てて目を手で隠す。
「あー、もう、いきなり目玉を指で触りな(触るな)。弘明、美琴と水都に水入れたって」
「え、俺?」
「君も共犯。ちょっと顔洗ってくるわ」
 廊下を出てすぐのところに洗面所はある。
 冷水をざぶりざぶり、と顔にかけていると、背後で気配がした。
「誰?」
「ホオズキ。香水の匂いんで分からん?」
 顔を洗面台に向けたまま。
「酒の匂いで分からへん」
と答える。
「何?」
「眼鏡持ってきてあげたのよ」
「おおきに」
 ホオズキがふんと鼻を鳴らす。
「アンタ、鏡みてみな。めっさおぞい(怖い)凶悪な顔のジジィが映ってるけん」
「そんな怖い・・・?」
 水をまた顔にかけながら聞くと、「そうよ」と返された。
「見えへん。眼鏡返して」
「その顔じゃ戻れん」
「そうか・・・」
 びしょびしょの八重の顔を見て、ホオズキはため息を吐く。
「アンタって昔からそうよね。常に過去ばっかり見てる」
「昔っから過去ばっかりって・・・どんだけ昔の事やねん」
「混ぜっ返しは良いのよ。その眼・・まだ悪いのね」
「・・・うん」
 ホオズキは黙ってその場を動かない。
「可愛い弟たちには見せらんないわね。その顔」
 眼吊り上り、口は歪に弧を描く
 奪い取る侵略者の顔―。
「何百年前線から遠のいたのよ、アンタ」
「・・・・。僕は元々・・・そういう存在として生まれてきたからな・・・」
 若いというより幼いに近い記憶。
 邪馬台国と呼ばれた男に突き刺した槍の感触。
 飛び散った血が目に入る痛み。
「あれから、目は悪い儘や・・・」
 権力を手に入れ、侵略を繰り返した。
 消えて逝った国々の血を拭う。しかし、血は目に入る。
 視力は、落ち続けた。
「邪馬台国は言うてたよ・・・
『お前が生まれたとき理解した。この大和の地で、お前に殺されるのだと。大和よ、お前もいつか、その玉座から―俺と同じように若人によって引きずりおろされるぞ』
ってな」
 タオルで顔を拭うと、ホオズキの呆れたような声が聞こえる。
「それでも、一時とはいえ、アンタはこの国を手に入れた。幾多の国が亡び、消えていく中で生き残った」
 ぐい、と長い髪が引っ張られる。
「不満があるの? 大和朝廷」
 にたり、と彼も笑っているのだろう。
「酒臭いわ、じじい」