103―北欧の夫婦獅子

 運命、宿命、さだめ。
 北欧は死すべきさだめであった。
 それを奪って転換しようとしたから、審判の剣が下された。
 そんなもの。
「知らぬわ」
 スウェーデン王と王妃の言葉が重なった。
 知らぬわ。
 裁きなど、知らぬわ。
 正しきなど、知らぬわ。
 運命など
「是非も無し!」
 二人は怒声を上げた。
 日頃静かな夫婦の、運命に対する一撃であった。
「スウェーデン国王、ヤン・ラーソン」
「スウェーデン王妃、ビオラ・ラーソン」
 二人は、剣を抜いた。
「推して参る!」
 瞬間、気温が下がった。
「なッ」
 銃の引き金が凍りつき、カナダ国立病院の医者や看護師は驚きの声を上げる。
「我ら、滅びる凍土に非ず」
「我ら、邁進せし凍土なり」
 ヤンとビオラが剣の切っ先を向ける。
「我ら、北欧の夫婦獅子(めおとじし)、いざ!」
 ウッラ=マイヤとデンマーク王妃セシルはポカンと二人を見た。
 国王、ヤンが戦士である事は知っていた。しかし、王妃のビオラはいつも淑やかに夫を立て、あのように荒ぶる戦士であるとは露とも知らせなかったのだ。
 パーシーは叫んだ。
「銃を捨てろ! 凍傷になる!」
 女看護師は叫んだ。
「指など捨てました!」
 そして、彼女は発砲した。
 案の定、氷点下まで落ちた気温の為、指は鉄にくっつき、銃に貼りついて取れなくなった。
「当たるかあッ」
 ヤンとビオラの気合い一声。氷の分厚い壁が、瞬時に現れ、弾丸を防ぐ。
「当たれええッ」
 一斉にC7自動小銃を撃ちまくる白衣の集団に、氷の壁はドンドン削れていく。
「陛下、此処をお守りください!」
「分かった!」
 ビオラが氷の壁から突如飛び出し、白衣の集団に剣を向けた。
「凍れ!」
 剣の先から、一本2メートルはあろうかと言う、巨大な氷柱が数十本弾きだされ、白衣の集団を串刺しにしていく。
 血しぶきの中、年老いた小児科医は叫んだ。
「院長! お然らば!」
 その腹には、深々と刺さった氷柱と、爆薬の束があった。
 ビオラに向かって、その小児科医は飛び込んで行き、飛び交う氷柱で体を肉片に変えながら、爆薬に点火した。
 ドカン
 轟音。
 ヤンは思わず、氷の壁から飛び出していた。
「ビオラ!」
「”お守りください”と言われたじゃないか」
 爆風にかき消された目前に、パーシーが居た。
「これが狙いか」
 ヤンの呻きに、パーシーは、至近距離から放つ電流で応えた。
 落雷に撃たれ、ヤンは落命した。
「陛下!」
 片足を吹き飛ばされ、頽れたビオラは叫んだ。
 ドレスはほとんど無くなり、千切れた肉と骨がむき出しになっていた。
「まだ……まだまだあッ!」
 ビオラは咆哮した。
 再び数十本の氷柱を作り出した。
 氷柱の一斉射撃。
 パーシーが守る間も無く、白衣が朱(あけ)に染まる。
 そんな中。
 ケネス・コレットは何でもないかのようにぼんやり立っていた。
 彼は自分に価値を感じない。
 だから、生きたいと願う気持ちが分からない。
 だけど、目の前で生きたいと乞う人の群れが死ぬ。
 心が、ゆっくり破綻していく。
 運命、宿命、さだめ。
 自分は、何故、家族だけが世界だった?
 何故、世界から愛されなかった?
 何故、今、弟は
「兄さん! 逃げて!」
 愛してくれる?
 向けられた銃口に、ケネスは何もしなかった。
 何も出来るほど、理解が追い付かなかった。
 逃げないといけない?
 何故?
 死ぬから。
 なんで。
 私が死んじゃいけないの?
 パーシーは、電撃を放った。
 それは外れ、セシルを落命させた。
 ウッラ=マイヤが手に取った銃口は。
 はっきりとケネスに向いていた。
「ごめんね、お父さん、ブラギ君」
 銃口がこちらに向く。
「あたし、可愛くなくてもいい」
 銃弾が放たれた。
 しかし、それは外れた。
「ヤバすぎるだろ!」
 裏から回ってきた、エミリーが銃弾に弾丸を当てて、逸らしたのだ。
「エミリー・カーター……」
「なんだお前は? 北欧軍か? それにしちゃ、銃の構えがまるでなっちゃいねえ、そんな撃ち方をしたら肩が外れるぜ」
 赤毛の少女は、ウッラ=マイヤと対峙した。
「あたしの名前はウッラ=マイヤ。アールネ・ラティーノヤの娘、ブラギ・インギマルションの妻」
 モシン・ナガンM28銃が構えられた。
「あたしはアンタを……ぶっ殺す!」