107―最強の矛VS最強の盾

 全部を手に入れてきた。
 全部を手に入れなきゃダメだった。
「ねえ? ヴァルキリーはルールは守らないとダメよ? 分かってるわね? ブリタニア」
 誰が泣いても、わたくしは全てを手に入れないとダメだった。
「……場所を変えますよわよ!」
 ヴァルキリーの能力、空間移動。
 ブリタニアとサマンサは、一瞬でキリマンジャロに移動した。
 キリマンジャロ。アフリカ大陸。偉大ななる山。
 上空。
 二人は空中に居た。
 空気がぶれた。
 風が冷たかった。
 赤道直下とはいえ、頂上付近ではマイナス10度前後になる。
 そこに、ヴィクトリア朝のドレスを着た女と、カントリーショップの店員姿の女。
「く……くくく……」
 ブリタニアは笑い声を漏らした。
「くはははははは! あーはははははは!」
「何か楽しい事でもあったの?」
 サマンサは頬に手を当てて微笑む。
「だって笑わないとやってられねえですわ。このわたくしが、大英帝国の女王が、ヴァルキリーが、世界が望む女が、こんなアフリカくんだりのド田舎の山の中で、オールドマンとモーガンの真似事をするなんて!」
「映画は違うけど、「悪いとされてる奴と、悪い奴とがいる。違いを知るのが大事だ。」は如何?」
「テメエはどっちですの?」
 サマンサはにっこり笑った。
「悪い女よ」
「超知ってたわよ」
 シュウ……シュウ……。
 ブリタニアの体から、蒸気とも吐息ともつかぬ音が噴出した。
 ドレスの下から鱗が落ちた。
 シュウ……シュウ……。
 ブリタニアの下半身が、伸びた。
 それは大蛇であった。
 下半身を金色(こんじき)の蛇と化し、ブリタニアは絶叫した。
「サマンサ、アンタにだけは! アンタにだけは譲らないわ!」
 その顔を鱗が覆った。
「アンタの絶対の盾、破ってみせる!」
 ブリタニアの口が光り出した。
 その口には鋭い牙があった。
 サマンサは迎え入れるように、正面に盾を”見えるようにした”。
 鏡でできた盾の中心には、ゴルゴン(髪が蛇の女)の首があった。
 またわたくしを馬鹿にする気ね……。
 ブリタニアは口に光をためた。
 アンタはいっつもそう。
 昔っから余裕ぶって、いつも自分が上みたいな顔をして。
 二人で指したチェス。
 いつも序盤勝っていたブリタニアが、ラストで巻き返された。
 それが気に入らなかった。
『勝たせてあげていたのよ』が気に入らなかった。
 いつも自分が上みたいな顔をして、実際に上だから
「気に入らないのよッッ!」
 ブリタニアは、口から光を吐いた。
 それは、キリマンジャロの山を破壊し、閃光は天を覆った。
 四方八方に光の矢が降った。
 大地の絶叫が聞こえた。
 アフリカ大陸が、地割れを御こし、森もサバンナも家々も焼け焦げていった。
 人類最初の女は、アフリカのルーシーと呼ばれる女らしい。
 つまり、此処は始まりの大陸。
 その始まりの大陸が、ブリタニアの一撃によって、終焉した。
 山は崩れた。
 大地は焼け焦げた。
 煤と死臭が満ちた。
 しかし、サマンサは。
 平然と立っていた。
「矛盾、という言葉を知ってる?」
 ブリタニアは完全に息を切らし、意識を飛ばそうとしていた。
 今のが、最大の一撃だった。
「ある商人が言った「こちらは何でも貫く矛です」「こちらはなんでも防ぐ盾です」。賢人は言った「では、その矛でその盾を突いたらどうなるのかね?」誰にも分から無いようでいて、答えは決まりきっているわ」
 だからどうしてアンタは
「正解は、「使い手の腕次第」まさに、ヴァルハラで最高の攻撃力を持つ貴女は、なんでも貫く矛だと思わない?」
 そうやって、余裕ぶって
「貴女は、一撃に全てを籠めるべきじゃなかった。小出しにして、私のスタミナ切れを待つべきだったのよ。なんでも防ぐ盾である私の」
 一番言われたくない事を言うのよ!
「わたくしは! わたくしは負けてない! 一番はわたくし! 世界で一番の女はわたくし! アンタじゃないのよ! わたくしが世界で一番の場所に相応しいの!」
「ブリタニア、ずっと前から思ってたけど」
 サマンサはエプロンの下から、コルトを取り出した。
「そうやってガツガツしてるから、引かれちゃって友達ができないのよ」
「サマンサァッ!」
 銃声が響いた。
 ブリタニアの胸に穴が空いた。
 約束してって言えなかった。
 いつか一番になったら。
 お友達になって、サマンサ。
 それまでは、一人で頑張るから。
『ブリトニー』
 マイケル?
『僕はずっと傍にいたのに、気付かなかったの?』
 だって、お前は……頑張らなくても傍にいてくれたから。
『友達って、頑張らないとなれないものじゃないよ』
 だって、だって、頑張らないと誰も相手にしてくれないじゃない。
 ずっと一人になっていく。どんどん一人になっていく。頑張っても頑張っても一人になっていく。
『僕がいるのに?』
 頑張らなくても、良いの?
『身の丈にあった友達なら、良いんじゃないかな』
「そう……じゃあ、お友達になって」
 ブリタニアは落下した。
 金色の粉になっていくブリタニアを見下ろして、サマンサは呟いた。
「ブリタニア、私、貴女の事は、普通に好きだったのよ」
 サマンサの姿も闇に溶けて行った。
「馬鹿な子」