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ハードボイルドダークファンタジー多め。銃と刃がrock 'n' roll! 超重量級の物語。 毎月最初の金曜日更新

愛玩犬1

 女を抱きたければ外に行け。ライオン(シンバ)を抱きたければ街にいろ。
 十三番街でのローカルジョークだ。
「なんでだよ! てめえふざけんなよ! なんでヤらせねえんだよ! 俺のこと愛してねえのかよ!」
「だーかーらー! 店に来て金払ったらヤるって言ってんでしょ! 何タダでヤろうとしてんのよバッカじゃないの!」
「っざっけんなよ! てめえ何様だよ! 人をナメんのもたいがいにしろよ!」
 路地裏から聞こえる怒鳴りあい。
 気づいた納が走り出す。
「やめようよ、他人が首つっこむことじゃないよ」
 小林が止めるのも聞かず。まっしぐらに路地裏に飛び込む。
 間に合わず。
 銃声。
 おそるおそる路地裏をのぞき込む。
 腹に穴をあけて倒れている男と、銃を手にした女。
「てめ……この……」
 男が起き上がろうともがく。
「やっだ、死んでない」
 女は薬莢が空になるまで男に弾丸を撃ち込む。強張った顔で撃ち続ける。
 男は死ぬ。
 女は安堵の息をつく。
 十三番街の女たちは、ほとんどが水商売か水商売に関する仕事だ。
 そして、十三番街のバック制度では「金銭を伴わない交際要求」は「相手を殺害しても仕方がない事情」とみなされる。
 残酷だ。小林はつくづく思う。
 彼女たちは残酷だ。
「助けるの、間に合わなくてごめんなさい。怪我、してない?」
 納がすっと女に近寄る。女はどさりと尻餅をつく。短いスカートから下着がのぞく。
「納君じゃん。気づかなかった。怪我……怪我ね。なんか肩痛いんだよね」
「銃は構えがちゃんとできてないと、肩痛めるって聞いた。病院行く?」
「そうなんだ。撃ったの初めてだし、うん、そーするー。わるいんだけどバッグ、店まで届けてもらっていい?」
「うん。お店、ティモン&プンバァで合ってる?」
「そそ。店の誰かに渡してくれたらいいから。今度お礼するけど、とりあえずマカロン持って帰って。そこそこおいしいヤツ。ロッカーに入ってるから、店の誰かに言ってよ。お礼何がいい? お酒ダメなんだっけ」
 女が早口で言いつのるのを、撃たれた男が口を開いたまま見ている。
「お礼なんていいよぅ。それより、病院」
「ああ、そうだった。行ってくる。でもお礼させてね」
 彼女が去る。
 男たちが残される。七竈納は、彼女のバッグをあっさり預けられた。財布だってスマホだって入っているバッグを。
 小林は撃たれた男を見る。じっと見る。とくに何もない男だと思う。
 バッグを持ち上げた瞬間、納は少し顔をしかめる。寄せられた眉ですら、アーモンド型の瞳とバランスがとれている。
 この顔を見ると、小林の視界を蝶が舞う。苦しい。
「えっと、でね、小林さん。僕、相談っていうか聞きたいこと……わかんないことがあるの」

 

 ゴールドラッシュで、メフィストはまたグラスを傾けていた。だらだらと暑い昼下がりに客はない。
「心肺停止状態で発見」
 3回目の同じセリフ。キムはうんざりだと在庫注文票を書き始める。
「そんだけグチグチ言うんやったら治したるなや」
「心肺停止状態で発見したんやからしゃあないやろ! リード離した瞬間死ぬんか! そこまで即な犬おらんぞ!」
 ヘネシーを一気にあおる。
「一刀斎の言うこときかへんとこ、しっかり受け継ぎおって。せめて全治1週間の全身打撲は残したったのに……。今日も約束したて引っ越しの手伝いやら行きおって……」
「全治1週間で力仕事かいな。ご苦労なこっちゃな」
「いや、インターネットの配線やて。よう知らん。なんか機械のことやろ」
 ドアがからんからんと音を立て、愚痴に割って入る。
「あー、暑い。煮えそう。ビール……って、メフィスト、こんなとこで飲んでていいの?」
「いいのってなんや?」
 隣に座ったコルメガに問い返す。他人事口調でシチリアマフィアは答える。しゃれたシャツが汗に濡れている。
「この十三番街に神父がきて、メフィスト・フェレスはどこだって探してるらしいよ」
「この宗教ご法度の十三番街に? ほんまか? メフィスト、今度は何やってん」
「せやから納が言うこときかへんで全身打撲やって言うてるやん」
 街の女王にして悪魔の女王がめんどうだと思ったのだろう。男2人は話題を切り上げる。
「そういえばキム、表の札が「close」のままだったよ」
「そういえばせやったな。うっかりしすぎやろ思た」
「閉店の札見ながら入ってくんなや」
 しかし、うっかりはうっかりである。キムはのそりと札をつけかえに行く。
 木製のドアにかかる「open」
 刹那、メフィストの指示が飛ぶ。
「伏せろ!」
 銃声。
 連射の炸裂音。
 酒瓶、グラス、窓の割れる音。
 霧のような硝煙を足元に、男が入ってくる。
 茶と灰の中間色の髪。青白い肌。やせ形の東欧系体躯。パープルアイ。
 カソックを身にまとい。ロザリオを腰から提げ。
 両手に掲げる、楽園部隊専用サブマシンガン【アベル】
 店内を見渡している。
 足元に影が伸びている。
 ひっくり返したテーブルの向こうに、コルメガとキム。
 メフィストはテーブル前に立っている。
 瑠璃色の瞳とパープルアイがしかと合う。
 グラスを見せる。
「ヴァチカンの飼い犬よ。君はここに交渉に来たのか? お使いにきたのか? それとも――」
 微笑。
「楽しみにきたのかね?」
 グラスを投げる。
 琥珀色の液体がくるくる回る。
 同時発砲。
 メフィストのサブマシンガン【スコーピオン】
 カソックの男のサブマシンガン【アベル】
 腹に響く連射。
 絶え間ない銃声。
 ひらめくカソックとドレス。
 天地跳ね回る弾丸と布。
 穴だらけになる店に、キムが悲鳴を上げる。
「メフィストッ! そのターミネーターなんとかせい! 閉店するぞコラ!」
 無視して続けられる発砲。店のガラス製品がすべて砕ける。
「加勢しようか?」
 コルメガがベレッタ拳銃を取り出す。
「気遣い無用だ」
 黒いドレスが着地する。
 メフィストは左の拳を開く。
 中から落ちる弾丸を見せつける。
「掴めるということは、当たっても問題がないということだぞ?」
 両者の口角が上がる。
「ずいぶんなご親切だな。メフィスト・フェレス」
 カソックの男は銃を捨てる。
 否。
 2丁のサブマシンガンは、男の影の中に落下する。
 沼のごとく広がる影。
 男はそこに手を突っ込む。
 ずるりと。
 身の丈を超える大鎌を引きずり出す。
 刃が鈍い光を放つ。
「ほう」
 あれならば、己にも傷がつくな。
 メフィストはそう判断する。
 さて。
 考える前にドアが開く。
「メフィストッ!」
 巨躯。
 主の危機に駆け付けた七竈納が。
 主の敵を前にして。
 目を爛々と立っている。
「誰がターミネーター増やせ言うた」
 キムが頭を抱えた。

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

 えっと、七竈納です。女体化が楽しいそうなので、しばらく女体化するそうです。
 後、僕は大人の女性になってて。24歳で。
 えっと、それから
「お、新入社員ちゃん? いいねえ。すげえボン、キュッ、ボンじゃん。やっぱ会社にはかわいい子が一人はほしいよね。あ、でも背は高すぎるな。減点〜。とりあえずお茶淹れてよ」
「はいっ! 淹れてくるのです!」
 本日付で入社しました。入力事務係です。東京の会社員で社会人なのです。がんばります!
(元気よくお茶を淹れに行ったにょたかまどちゃん。しかし、彼女の現在位置は営業課。フロアが違う。次回、賢明な読者諸氏の波乱の予感は的中する)
つづく!


2020/02/02

愛玩犬2

「はい」
「いや……いいよ」
「そう」
 差し出されたマカロンを遠慮する。すると、あっさり自分で食べてしまった。
 いかにも女の子が好きそうなパステルカラー。小林も嫌いではない。ただ、いったん遠慮してみせただけだ。
 なのに、「遠慮しないで」とは言われなかった。小林小五郎は、七竈納にとってその程度の男なのだろう。
「ごめんね。お店まで着いてきてもらって」
「いや……気にしないで」
 納の話がとっちらかっているせいで、歩きながらの会話が長引いただけだ。
 小林はさっきの男を思い出している。
 何も殺すことはないじゃないか。
 向こうだって気のあるそぶりをしたんだから。
「でね、小林さんに教えてほしいことはね」
 気のあるそぶりをするのが商売だったからだ。
「僕ね」
 商売でもなんでもないのに、七竈納には好意を見せる。
「なんでユーリに嫌なこと言っちゃったのかな」
 それは。
「来たか」
 香辛料の香り。
 先日、難民の男女を送っていったサンドイッチ屋。オアシスの店主が非常階段を下りてくる。
「早く来すぎてないですか?」
「今日は休み。問題ない」
 納は小林を振り返る。
「あ、小林さん。これからここで」
「――――!」
 遮るようにアラビア語。
 女の声。
 先日送ってきた彼女が、息せき切って階段を下りてくる。
 相変わらず布で全身を覆っているが、清潔な身なりに変わっている。
 こちらを向いて。
「――――!」
 店主が彼女の肩を叩く。
「先日の礼を言っている。私からも改めて礼を言う。ありがとう。助かった」
 あのときも。小林は納に振り回されただけだ。
 あのときも。ここに来る前も。ずっと。
「あのね、小林さん。さっきの話」
 彼女も、納を見て飛び出してくる。
「後にしてくれ!」
 小林は叫んだ。そして、自宅に逃げ込んだ。

 

 女たちは、弾丸一発でけりがつく社会を求めて、この十三番街にやってくる。
 男たちは、社会のどこにも求められず、この十三番街に流れてくる。
 女はライオン(シンバ)。男は虫。
 小林も、虫だ。
 否。
 小林は、本当に虫に成り果ててしまった。
 視界の端を蝶が舞う。
 泥酔時に必ず見える幻覚だ。だから、いつもは酒を飲まない。
 蝶はひらひらと飛び回る。薄い薄いかんなくずをつぎはぎした羽。羽化したばかりの羽。
 蝶は左胸にとまる。
 その位置には。
 666の刻印ができている。
「何を嘆いている?」
 アパートの窓一面を使って、ベルゼブブが問いかける。
 半身はゲヘナに潜ったままだ。半身をゲヘナの入り口にした窓から出している。
 威厳がある男だ。金髪碧眼の将校風の男。不惑程度の容姿年齢。
 上級悪魔【蠅の王】ベルゼブブ。九王の一人。サタンへの反逆者。そして――。
「あんなに……、あんなに簡単にさ……。骨が砕けちゃうなんて思わなかった……」
 小林が契約してしまった悪魔。
 この蝶も、こんなに簡単に砕けてしまうなんて思わなかった。
「貴様は強くなることを望んだのだろう?」
「だって。強くなったら怖いものなんてないと思ったんだ」
 ベルゼブブは問う。
「何が恐ろしいというのだ」
「納君が怖い」
「愚かな。あのメフィスト・フェレスの小僧など、取るに足らん」
 違う。七竈納だけが怖いのではない。
 七竈納と同類の、あの女が怖い。
 この蝶を創った女が、怖い。

 

 小林は少子高齢化にうめく町で育った。
 町には、その女がいた。ずっといた。
 今の小林ぐらいの年齢だったと思う。
 両親の元で暮らしていた。独身だった。毎日昼間、生活に必要な外出をするので、町の者は皆「引きこもり」と呼んでいた。
 彼女の家は空き地の隣にあり、空き地から彼女の部屋はよく見えた。
 彼女は部屋を網戸だけにして開け放し。薬品の臭いを放っていた。室内には大判の本や図鑑。そして、蝶があふれていた。
 かんなくずや、貝殻や、水晶で創られた蝶が。
 高1の夏休み。小林は蝶を盗んで暮らしていた。
 あの町では中学も高校も同じ連中が多くいて。高校を出れば皆いなくなり。夏休みの合い言葉は「蝶、とりに行こ」だった。
 彼女の部屋に入って、乾かしているさなかの蝶を盗む。
 実行犯はいつも小林だったが、「盗め」とはっきり言われたことはない。
 はっきり言われなくても、わからなくてはいけなかった。
 その日も、蝶を盗みに入った。その日だけ、初めて蝶をはっきり見た。
 これは壊してはいけないものだ。
 今日、「とろう」としていた蝶は、蛹から羽化する瞬間の蝶だった。
 その蝶をはっきり見た。かんなくずのみで創られたその蝶は、他の蝶にくらべて華はなく。しかし、何度も薬品を塗り重ねて。羽化した瞬間の濡れた羽を再現していた。
 生きている。
 そう思った。壊してはいけない。そう理解した。
 盗んだ蝶はみな空き地で踏み潰されると決まっていた。
 逃げよう。逃げるしかない。
 その瞬間、ドアが大きく開いた。
 蝶の創造主。引きこもりが立っていた。創造主は盗人を見据えた。盗人は恐怖にかられ、創造主を突き飛ばした。創造主は倒れ、頭から派手に血を流した。真っ赤な手で、小林の足を掴んで離さなかった。
 不法侵入。強盗傷害。幾度も繰り返された犯行。
 あの蝶たちは売り物だった。小林の両親や学校は、未成年のしたことだからと賠償で済まそうとした。何倍もの値段で賠償できるほどに蝶は安く、彼女の怪我は小さかったのだ。
 彼女は断固として刑事罰を主張した。
 謝罪に行った小林は、「やれと言われたわけではないが、やらないといけない空気だった」と説明した。
 創造主ははっきりと告げた。
「どんな空気であったとしても、やってはいけないことをやってはいけない」
 小林は起訴されたが執行猶予がついた。退学処分になった。町中が創造主を「遊びで作ったものを壊されたぐらいで大人げない」と批難した。
 小林は自身への擁護に充ちた町に住むことが耐えられなかった。町の中で、小林だけがあの蝶の価値を知っていた。

 

「納君は怖い」
 ベルゼブブはあきれを隠さない。
「ならば、殴ればよかろう」
 小林ははじけるように叫んだ。
「今日、僕は人を殴ったよ! イチャモンをつけられたから殴った! きっと今度は殴り返されるよ! 終わらない! 終わりにする方法は1つしかない! 動かなくなるまで殴るんだよ! ついこの間見た! 納君が殴ってた! 納君なら耐えられるだろうね! 僕は無理だ!」
 すすり泣きが混じってきた。
「あんなの……人間じゃない……。僕は、僕はただ……」
 アラビア語の彼女。
 難民として逃れてきた、あの女の子。
 顔も体も隠しているけど。
「カッコいいって思われたかっただけなんだよ!」
 創造主と同じ手をした、小さくひび割れた手をした、あの女の子。
「そうすれば、世界が変わるって……。そう思ったんだ……。悪い方に変わるなんて……そんなの思いつくわけないじゃないか……」
「貴様は」
 ふいにベルゼブブがゲヘナに引っ込む。
「何?」
 気づく。
 ぎしぎしと廊下がきしむ音がする。
 ノックの音が響く。
「小林さーん、いるー?」
「……納君?」
 扉は開けない。
「あ、いた。こんにちは。なんか、喧嘩したって聞いたけど大丈夫?」
「大丈夫?」
 小林は早口でまくしたてた。
「僕は大丈夫さ問題ない。それよりさ、納君はなんで喧嘩して人を殺さないんだい? 動かなくなるまで殴ってるじゃないか。なんでさ。そんなに違いがあることなの?」
 扉の向こうで戸惑っているのが伝わる。
「なんでって……。メフィストが喧嘩で殺しちゃダメっていうからだよ。あの、それよりおつかいがあるんだけど」
「ああそうかい!」
 小林はヒステリックにわめいた。
「じゃあ、君はメフィストさんが好きなんだよ! ユーリ君にいじわるをしたのもそれが理由さ! 恋だよ!」
 息を呑んだ気配。
「恋……。恋ってそんな……。そんなもの、気持ち悪いよ」
 えらく小さな声だった。まるで弱々しいかのようだった。
 だから、余計にヒステリックになった。
「ふざけるなよ! 君ならうまくいくんだよ! 僕なんかとは違うんだ! 君は、君は違う存在なんだよ!」
「どうしちゃったの? あの、とにかくおつかいがあって……」
 絶叫。
「帰ってくれ! もう、もう帰ってくれよ!」
 去って行く足音。
 ベルゼブブがやっと顔を出した。
「気が済んだか。ならば、もう憂いはなかろう」
 小林はぽつんと言った。
「みじめだ。すごくみじめだ」
 怒声が響いた。
「弱い! 弱すぎる! 強くせねば! いや、強くしてやろう!」

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

にょたかまど「あっ、蛍! 久しぶりー! あのねっ、今日から入社したよぉ。よろしくお願いします!」
妙高蛍(24歳女性 営業事務)「……いや……こんなとこで何してんの?」
にょたかまど「お茶くみ!」
蛍「いや……、そうじゃなくて……。お前、入力事務じゃん。フロアが違ぇし……。あと、うちはお茶くみに女子社員使うの禁止だぞ」
にょたかまど「えッ、会社なのに!?」
蛍「……我が社のモットーはな……。「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ」なんだよ……。後は察せるだろ……?」
にょたかまど「……僕、やっていけるかな……」
蛍「……」
にょたかまど「……」
蛍「いや、そこは新人じゃん? 新人……。いや、、まあともかく、その……お前は入力事務係に戻……。っておい、なんだそのお茶、トレイがプールになってんぞおい!」
にょたかまど「持って歩いてたら……なんか……こぼれちゃって……」
蛍「半分も残ってねえ! もうそれはイイよ! それは逆にイイから持ってけ!」
逆にイイってなんなんだろう……。
つづく!

 



2020/02/09

愛玩犬3

 何が悪かったんだろう。
 納は思考を訂正する。
 僕がしてしまった中で、どれが悪かったんだろう。
 この自問自答は納の負のライフワークであり。
 ほとんどの場合、正解がわからない。
 心当たりはいつもたくさんある。
 今回もある。
 小林さんにはいつも会話を合わせてもらっているし。小林さんが会話中で不快そうな表情をしていたこともある。
 何が不快にさせたんだろう。
 何を言ってはいけなかったのだろう。
 あるいは。
 笑顔が不気味だったのだろうか。
 納はじいっと考える。こういうときに一番してはいけないのは「何が悪かったんですか?」と聞いてしまうことだ。
 相手は必ず激怒する。悪かったところは教えてもらえない。
「あれ? 納君、こんなとこにいんの?」
「ふぇっ」
 背後から声をかけられ驚く。急ぎ笑顔を作る。
「えーと……」
 目の前の女性はああ、と言った。
「すっぴんだとわかんないか。ほら、こないだティモン&プンバァまでカバン届けてもらったさ」
「あ。ごめんなさい」
「いーよ。あの時は助かったし。つーか、ぶっちゃけ結構ビビッてたんだよね。あの時。腕の筋もやっちゃったから、メイクできなくってさー。休暇だよ休暇。それより、納君も休みなの? ほっといていいのアレ」
「アレ?」
「え、知らなかったの? ゴールドラッシュでメフィスト・フェレスと神父がドンパチやってるらしいんだけど」
 聞いた瞬間ピルケースを取り出し。七竈納は駆け出した。
 服用、1rの錠剤。

 

「ええかげんにせんかあ! テントで営業さす気かおどれら!」
 キムの悲鳴が響く。
 大ぶりの鎌。
 死神のに酷似。
 降り降ろされた大鎌が、テーブルの盾を砕く。
 大鎌=超重量型打撃武器。
 テーブル下から逃れ、しゃがんだまま足払いをかける。
 相手の姿勢が崩れる。
 が、パープルアイの神父はそのまま浮く。
 逆にかかとを落とされる。
 腹部への一撃。
 痛みで息が止まる。
 向こうの方がリーチが長い。
 不利。
 神父が空中で鎌を振りかぶる。
 白々とした刃が光る。
 相手の武器種別変化。
 刺殺に特化した長物の刃。
 切っ先が突き立てられる未来を予測。
 死。
 大きく息を吐きだす。血の混じった唾が飛ぶ。
 大鎌の柄をつかむ。
 活路。
 武器をとらえた!
 神父はニヤリと笑う。
 大鎌から手を放す。
 超重量にひねられる左手。
「祈るんだな、クソガキ」
 足元の影からサブマシンガン出現。神父の両手に握られる。
 銃口がこちらを向く。
「やめなさい!」
 神父の動きが停止する。
 制止したのはメフィストではない。
 メフィストは、制止した者を待っていたように言った。
「やっと到着かね」
 銃口はぶれない。
 メフィストは銃をしまっている。
 これは、本当に待っていたのだ。
 待っていた男を呼ぶ。
「ヴァチカン直轄武装エクソシスト楽園部隊のはぐれ者。唯一たる真実のエクソシスト。名を呼ぶことを戒められた男」
 通称、M(マスター)!
「ヴァチカンをあそこまで突っつくことはなかったじゃないか。神戸外人墓地での拷問と虐殺。さらに先日のホテルでの皆殺し。彼らはただの純良な人間だよ。私が来るしかないだろう、メフィスト・フェレス」
 Mは初老ながらしっかりした体格の男だ。
 肌艶もいい。物腰も落ち着いている。
 メフィストは優雅に右手を差し出す。
「その通りだ。彼らは殺され、君は来た。そして私はここにいる。さあ、手を組もうじゃないか」
 納は驚愕する。パープルアイの神父も目を見張っている。
 仲間を殺し続けた相手に、手を組もうだって?
 Mだけは驚かない。
「メフィスト・フェレス、理解を承知で言おう。我々ヴァチカンがソロモン七十二霊に手を貸した理由は、お前がそれ以上に強敵だからだ。ヴァチカンは神の従僕として人類を守るために存在する。何から守る? お前のような強すぎる力からだ。お前は神の領分を侵している。ヴァチカンが手を組む可能性はない」
 メフィストは微笑んでいる。
「私はヴァチカンと手を組みたいわけではない。君と手を組みたいのだよ」
 Mは少しだけ鼻白んだ気配を見せる。
「私だけが純良でないと言うのかね」
 メフィストは笑みを濃くする。
「そうだ。君は純良ではない。善良な人間だ」
 Mは公憤する。それを発する前に、メフィストは告げる。
「明日の13時。きっかりその時刻に、君の良心が承諾する条件を提示しよう」
 ひるがえるカソック。
 パープルアイの神父が大鎌を振り上げる。
「いけませんマスター! 誘惑は悪魔の常套手段です!」
 Mは逆に鎮まる。
「カロル。やめなさい」
 飛びかからんとするのを制する。確認する。
「13時だね?」
「13時だ」
「場所は?」
「この店で」
「断る場合は?」
「私が殺されるだろうな」
「なら、明日にしよう。カロル、おいで」
 二人の神父はきびすを返す。
 コルメガがカウンターにもたれかかり、ビールのプルタブを引く。
「この目で見といてアレだけど。まだ実在が信じられないよ」

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

前回のあらすじ。入社初日にお茶くみ禁止を知らず、さらにフロアが違う部署のお茶くみを始めてしまったにょたかまどちゃん(24♀)。既に半分トレイにこぼしている彼女はどうなる!?
「あの、お茶なので……すっ」(こけっ)(びしゃっ)(ビー)(ブルースクリーン)
 訃報:お茶くみを命じた先輩のパソコンとデータ(バックアップ? 知らない子ですね)
「あああああ……ごめ、ごめんなさ……」
 訃報:社内の空気
 登場:金髪碧眼の中学生くらいに見える少女
「何をしているんですか? 即断で自分の部署に来なさい」
「あ、あの、あのね。お姉ちゃんパソコン壊しちゃってね……。それでね……」
「喧嘩を売っているのですか? 私は入力事務係係長、マリュースクです」
 訃報:にょリュースクの身長と色気と外見年齢
「おおおおい! マリュースク! お前、こいつが何したと思って――」
「何ですか? 私の部下に何か落ち度でも?」
 訃報:メンチを切りながらごり押しするマリュースクに刃向かう勇気

 

 つづく!

 



2020/02/20

もてあそぶための犬1

「納は外で待機」
 納は首を傾げる。
「何を待つの?」
 メフィストは落ち着きすぎた声音で言った。
「何があるかわからないから、念のため待機」
 この声音は聞き慣れていた。
 納が何かを欲したとき、「あげない」という返答を受ける際に付随していた声音だった。
 福祉関係者や教員や「お母さんになる人」が、「あげない」理由を説明する際、必ずこの声音になった。
 納はいつも足りない。
 大人たちが説明する「あげない」理由は、全部嘘だと気づくのに、何年も何年もかかるのだ。
 だから、大人たちは、足りない子どもに嘘を吐いても問題ないと判断する。
 何年も先に、納はいない。
「あのね、女の子の服はもう着てたらへんだと思うの」
「そういうことにこだわっちゃいけませんよ。そういう男女の役割の決めつけは、もう社会からなくしていかなければいけないことです」
「でも、おひめさまっていわれてね。ぶったりけったりされるからね」
「それは納君が小さいからです。背が伸びたらそんなことはなくなりますよ」
 足りない納が、こんなに早くメフィストの声音にだけは気づけたのは。
「僕、メフィストのことが好きなんだ」
 ゴールドラッシュの外壁にもたれ、唇を震わせる。
「嫌だ。気づかれたくない」
 既に小林は気づいている。
 いずれ他の人たちも気づくだろう。
 メフィストも気づくだろう。
 気づいて、納を嫌いになるだろう。
 恋という悪しきもの。
 心臓にガラス片が詰まっているような感覚。
 ひょっとしたら、気づいていたのかな。
 納は青ざめ、記憶を展開する。

 

「Mが連れていた男。紫の瞳をした神父。あれは半ヴァンパイアや。純粋なヴァンパイアと違(ちご)て、日光も十字架もニンニクも流れる水も敵やない。……せやけど、眷属を増やすことができへん。
 ヴァンパイアは悪魔の中でも特異な種族でな。自分たちはヴァンパイアであって悪魔ではないと主張してる。東欧に共同のゲヘナを持ち、そこに集って隠れ住んでいる。
 あいつらの最も尊ぶことは、純血、長寿、眷属を健やかに増やすこと。
 古典的な人間の価値観と、独特の貴族制度で生きている」

 

 大人たちは「あげない」理由で騙すとき、絆創膏を1枚くれる。
 納と自分をなだめるために。
 あのヴァンパイアに関する説明は、メフィストの絆創膏なんじゃないか?
 ガラス片が心臓を刺していく。室内ではメフィストとMの挨拶が終わる。室内には蛍、ユキ、中津、ジョーイ、マリュースクも揃っている。コルメガもいる。キムもいる。メフィストは本当にあのMと呼ばれる男に脅威を感じるのだろうか。殺されることを想定しているのだろうか。あのカロルという半ヴァンパイアも中にいる。壁の穴はすべて板で塞がれている。
 中に入れない納に、全部の会話が聞こえていることを、誰も知らない。
 メフィストの声。支配者の口調。
「都市伝説とされている。いや、愛好家が都市伝説だと言い張らざるを得ない映像がある。ルーマニア革命の1年後から撮影され始めたスナップポルノ兼キッズポルノだ。チャウシェスク政権下で有力者だった者の息子が撮影されている。
 最初の撮影で、10にも満たない子どもの首筋に牙を立て、血をすすりながらレイプしている。次の撮影では、その子どもは犯され、切り刻まれ、殺されている。
 しかし、その次の撮影がある。その次も、その次も、同じ子どもが犯され殺され続けている。7回目の撮影、切り落とされた首からはっきりとわかる。彼は成長している。
 撮影は12歳で終わる。しかし、映像は今でも流通している」
 コルメガの声。
「DVD版は、かつてうちも取り扱っていた。今は様々な媒介で流通している。このタブレットでも見られる。この「再生」をタップすれば、今からでも上映される」
 つんざくような声が響く。
「嘘だ! そんなヤツは存在しない!」
 逆に冷静になった声が止める。
「カロル、落ち着きなさい。メフィスト・フェレス、お前は、なぜその話を?」
 メフィストの声。
「この子どもはヴァンパイアからの契約を途中で止められている。ヴァンパイアは処女童貞しか眷属にできないからだ。しかし、半ヴァンパイアを作ることは、ヴァンパイア社会で最も不名誉なこととされている。悪魔に探すことを頼むほどに。
 私は全世界からこの映像を消去できる。映像は記録。つまり、「時」だ。正確には消去ではなく不可視となるだけだが……。記憶に残っても記録は残らない」
「それが、私の良心が承諾する条件かね?」
「そうだ」
 Mは即答した。
「わかった。手を組もう」
 悲鳴じみた声。
「マスター! これはすべて嘘です! 何も映りはしない! すべてでたらめだ! 何も起こらない!」
 何か倒れる音。
「やめろ映すな!」
 メフィストの焦った声。
 誰かの悲鳴。
 衝動。
 窓に走った。
 そして、見てしまった。
「誰か」のではない悲鳴。
 液体に汚れた、折れそうな子ども。
 液体で汚す、大きな大人。
 論を俟たない、レイプ。
 暗転した視界で、這うように離れる。
 コンクリートの感触。
 壁にすがるように、ざらついた表面に爪を立てる。
「穢い」
 嘔吐する。吐瀉物と唾液の間に吐く。
「穢(きたな)い」
 うずくまる肩が掴まれる。
 視界が紫になる。
 カロルが、画面に映っていた子どもが嗤っている。
「お前、同類だな」
 ぐらつく視界は高くなった。
 けれども。
「笑い方でわかるぞ。目つき、仕草、話し方、媚びる癖、すべてに染みついている。一目でわかる」
 紫の瞳が細くなる。
「お前、娼婦(フツカー)だな」
 視界が赤くなる。
 内ポケットから棒手裏剣を引き抜く。
 カロルの顔に向かって突き出す。
 それを歯で受け止められる。金属がかみ砕かれる。
 耳元で囁かれる。鼓膜が震える。
「いじめてやってるんだ。よろこべよ、娼婦」
 赤。
 短刀でカロルの腹を刺す。
 刹那、一喝。
「やめんかっ」
 瑠璃色。
 メフィストの瞳。
「見ないで……」
 コンクリートの壁が倒れてくる。
 下敷きになる。
 行動不能。瑠璃色。

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

前回までのあらすじ 七竈納(24♀) 入社初日に他部署の先輩のパソコンを壊していたら、上司がお迎えにきてくれた。
マリュースク(♀)「この入力事務係は私たち二人しかいません。私は直属の上司なので慧眼をもって接しなさい」
にょたかまどちゃん「はいっ! ……それは敬意で合ってますか?」
マリュースク(♀)「おそらく。この係は昨年できたばかりです。メインの仕事は、社内の書類を整理整頓し、社員の情報共有及び引き継ぎをスムーズにすること。そのためにデータやリスト等をひたすら入力することです。サブの仕事として、他の部署の人手が足らない際はピンチランナーとして手伝います。主に書類作成ですが、何を頼まれるかは場合によって様々です。あなたにはまず、そこの倉庫の書類整理から覚えていただきます。質問は速やかに問答しなさい」
にょたかまどちゃん「はいっ! この倉庫ですね! ……この倉庫ですか?」
 倉庫の有様はホームズもしくは坂口安吾の自室に酷似! 明らかにメインの仕事が1年以上されていない! 社会人生活波乱の幕開け!

 

つづく!

 



2020/02/29

 

もてあそぶための犬2

「君、私とセックスしたいか?」
 入室と同時に、メフィストは回答を求めた。
 消毒液の香り。白い天井には黒い水玉。白いシーツ白い布団。寝ているのは白いパイプベット。パイプ椅子だけが茶色。メフィストは腰かけ、足を組む。
 痛み。納の全身を痛みが覆っている。ここに担ぎ込まれた際、医師がうんざりした声を上げた。「やりすぎですよ、メフィストさん」
 全部で何本かすぐにわからないほど、骨折しているらしい。「ブロック塀倒して下敷きにしたあ? ホントにやりすぎですよ、メフィストさん」
 でも、骨なんて何本折れたって問題ない。
 決して折れてはいけないものが、ギリギリときしんでいる。
 折れちゃ、だめだ。
 両親を思い出す。
 ああなっちゃうから、だめだ。
 だめになっちゃうから、だめだ。
 歯を食いしばる。目をつぶる。
 額にひんやりした感触。
 細くて長くて、シルクみたいな。
「最上級悪魔には必要ないから存在しないが、女性器もつけようと思えばつけられる。処女膜もしかり。ガールフレンドとして遜色ない少女の姿にもなれる。で、君は私とセックスしたいか?」
 メフィストの指。
「したくない……」
 ぎゅっと目をつぶる。
「誰ともセックスなんてしたくない……」
 手が離される。納は慌てて目を開ける。
 メフィストは足を組み、右手を手をひらひらさせている。
「よろしい。正常な反応だ」
「本当? おかしくない?」
「さっきの今でしたかったらまずいから聞いたんだよ。普段はこんなことを聞きはしない」
 納は右手を目で追う。左手はレースの手袋をしているのに気づく。手袋、外してくれたんだ。
「メフィスト、知ってたの?」
「知っていたよ。勝手に周囲に知らしめることではないから、知らないふりをしていたがね」
 右手を布団から出す。ぎゅっと掛け布団を掴む。
「僕は知らなかったよ」
 声が高くなる。
「僕は知らないようにしてたんだ。自分があんなに穢いことをしてるなんて、知らないようにしてたんだ。必死で、必死で知らないようにしてたんだよ。ねえ、なんでメフィストは知ってるの? 僕の見てないものを見ていたの? 前から見ていたの? 出逢う前から見ていたの?」
 次第に早口になる。ヒステリックになる。止まらなくなる。
 だめだ。だめになる。
「中学校の指導履歴だよ」
 右手を両手が包み込む。
 ひんやりした手と、暖かいレース。
「私は自分の軍勢の経歴は、全員確認している。と、言っても記録が残ってない連中がほとんどだがね。君は学校と役所にわりと残っているから」
「警察にも?」
「日本の警察は優秀だからね」
 左手を伸ばす。骨折の痛みが走る。
「なんて書いてあったの?」
 メフィストの素肌の方に手を重ねる。
「3年生2学期、児童売春防止法に抵触する疑いで補導。立件はされなかったが、私立○○大学付属高校推薦取り消し処分」
「それだけ?」
「それだけだよ」
 それだけしか書かれていないことが、メフィストには許せないことのようだった。
「それだけじゃないんだ」
 手に力を籠める。痛い。痛くても、僕はメフィストの手がほしい。
「1回じゃない。1人でもない。聞いてもらってもいい? 嫌なら言わない。聞きたい話じゃないもん。嫌って言って。僕は嫌って言ってもらわないとわかんないんだ。ちゃんと察することができないんだ。できなくちゃいけないこと、ぜんぜんできないんだ」
 瑠璃色の瞳。
「嫌じゃないよ」
 観音様が実在したら、あんな糸みたいな目じゃなくて、鷹や鷲みたいな瑠璃色の目をしているはずだ。
「僕は、ずっと、みんなやさしかったって思ってた」

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

 土御門篝火(24)元関西のブラック企業社員。転職したところ、東京支社に配属される。
篝火「アカン……。めっちゃどやされた……。客にそんなん引き継ぎされてへんとか言えるわけないし……。うう……あの紙くず蔵みたいなとこから書類見つかるやろか……。東京には空がない……」
 入力事務の倉庫を開けると……。
篝火「お蔵のお化け!? ってもしかして七竈!? って七竈って女やったんか!?」
にょたかまどちゃん「ふぇ……? あ、も、もしかして……かがり火!? 嫌いって言ったきりになっちゃってごめんねえぇ! 後、かがり火の名前がメモってある書類いっぱいあったから見てえぇ!」
 東京には、初恋の相手と葬られていた引き継ぎ事項全部と乳圧での窒息がありました。

 

つづく!


2020/02/29

もてあそぶための犬3

「僕はね、働きたかったんだ。働いたら、生きてちゃだめじゃないから」
 納は目を閉じる。網膜に記憶を再生する。
「それでね、いろんなお店の店員をしたんだけどね。お店の人の子どもが手伝ってるって設定にしたら、小学生でも働けたからね。でも、ぜんぜんできないの。僕は何をしても遅くて、どんくさくて、すぐに熱を出して、お店の人に迷惑ばっかりかけて。……嘘ついてまで雇ってられないぐらい迷惑かけて。
 物を運ぶだけで落としちゃうんだ。でも、落とさないようにそっと運ぶと、のろすぎて困らせるんだ。そのくせ、すぐに体調をくずすんだよ。休んじゃだめなのに。みんなちゃんと無理できるのに。僕だけ熱出して休んじゃう。
 だめなんだ。生きる資格があるときは、他の人に迷惑かけてるときだけ。
 でも、一つだけできる仕事があったの。
 メフィストと会う前だよ。
 小学生のころはちっちゃくて。高学年になっても10歳になってないのと間違われるくらいで。従姉のお下がりを着てたんだけど、そうすると女の子に間違われるぐらいで……。
 かがり火も間違えてたよね。
 うん。かがり火と別れてすぐだよ。僕でもできる仕事を見つけたのは。
 見つけたというか……、仕事の方が来てくれたカンジ……。
 あのころ、どこに住んでたかわかんないんだけど。しょっちゅう引っ越しもしたんだけど。とにかく、ガラ悪いとこに住んでて。
「お母さんになる人」が僕と父親を養ってくれてたんだけど。その人もしょっちゅう違う女の人になって。
 ……「お母さんになる人」に、こわい目で僕を見るようになる人がいて。
 怒ってるんじゃなくて。怒ってないからって、こわいのを我慢して。そしたら、セックスするようになって。
 セックスそのものがしたかったことはないよ。
 僕は働きたかっただけ」
 記憶がランダム再生される。言葉が通じるようにカットを選ぶ。すべてのカットが見よと叫ぶ。だめだよ。だめになっちゃうから。
「最初のときにね。「おこづかいあげるから」って言われたんだ。
 僕は、おこづかいだけじゃなくて、生活全部がこのセックスにかかってるのをわかってた。
 だから、我慢できたのがうれしかったんだよ。
 だってね、それは仕事だったんだもの。
 お金と衣食住と父親の世話と、そういう必要なものを代わりにもらったから。
 現物支給の仕事だったんだ。
 ガラ悪いとこに住んでたから、「お母さんになる人」が別の人に代わっても、仕事に困ることはなかった。
 笑えばよかった。
 人気のないところで知らない人に笑って、「ごはんかお金ちょうだい」って言えば、大人は仕事をくれるんだ。
 あの八王子のアパートに住むようになってからは、学校で仕事もできるようになった。
 休み時間に「勇者ごっこ」をしてたんだけどね。あ、「勇者ごっこ」っていうのは、「おひめさま」の僕をぶったり蹴ったりする遊び。
 先生が声をかけにきたら、「これは「勇者ごっこ」で「おひめさま」をさらったモンスターたちが「おひめさま」に乱暴する。そこに勇者が助けにくるんだって。
 みんな勇者になりたいから、平等に始めはモンスター役をするんだって。
 みんながそう言ったら、先生はどっかに行っちゃうの。
 いつも勇者は休み時間が終わるのに間に合わないんだけどね。
 でも、仕事は見つかるんだ。
 ぶったり蹴ったりしているうちに勃起しちゃう子がいてね。そういう子に仕事するよって言うとだいたいできる。
 他の子より早いのがはずかしいんだろうね。絶対誰にも言わないよ。
 でも、中学生になったら……。
 笑う余裕がなくなって。
 喋る余裕もなくなって。
 教室にもいられなくなっちゃった。
 うるさかったから。
 ううん。中学校だけじゃなくて、ずっとずっと教室はうるさかったんだけど。だから、なんで中学生になったら余裕がなくなったのかわかんない。
 えっとね。授業中、ずっとクラス全員がわめいてるの。何を言ってるのかはわからないよ。先生の声を聞き取るだけで限界だったから。
 とにかく授業中は全員しゃべって、わめいて、たまに奇声を上げる。先生は注意なんてしたことないよ。マンガでは注意してたからびっくりした。
 でも、学生は勉強するべきだから。でも、僕は勉強するとうるさくできなかったから。
 だから……。だからなんだろう。わかんない。
 なんでかな……。中学生になったら、笑えないし、しゃべれないし、教室にも入れない、そういうヤツになっちゃって。
 ……それでも仕事先は1人だけいたけど。その子のことは言わなくていい? 言わないって約束したから。
 とにかく、教室に入れなくなって、先生は養護学校に行かせたかったらしいんだけど、父親が「あれはどうしようもない子が行くところ」ってきかなくて。
 小さな物置のカットに入る。表彰旗や郷土史や毛布がしまってある物置。
「誰もが僕をもてあましてた。そしたら、あの先生がね」

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

『拝啓 鏑木一刀斎先生へ
 お元気ですか。
 僕は東京にも会社にも慣れてきました。
 マリュースクさんにお弁当わけてもらったり、休憩しなさいって言ってもらったりしてます。こないだ倉庫のお片付けができましたのでほめられました。
 先生も元気でいてください。
 それから、彼氏できました』

 

篝火「そうやって毎月はがき出してんのん、マメやなあ」
にょたかまどちゃん「返事はこないけどねぇ。でも、僕を引き取って大学まで行かせてくれた先生だもの。先生がいなかったら、僕、路頭に迷ってた」
篝火「ほんまええ人なんやなぁ。俺もいっぺん会ってみたい……、七竈、ちょっ待ち。なんや、お前の部屋の前にヤーさんがおる……。なんやアレ……和服で茶髪でロン毛や……。めっちゃメンチ切ってる……」
にょたかまどちゃん「あっ一刀斎先生!
篝火「えっ……!? ヤーさんやのうてお義父さん!?」
にょたかまどちゃん「うーん……。ヤーさんの用心棒はしてるんだけどね。誰かの下の立場でいるのが苦手で……ちょっとヤーさんになれなくて……」
篝火「いや、そんな『不本意ながらフリーランス』みたいな言い方されても!」

 



 2020/03/02

もてあそぶための犬4

「いったん退職した非常勤の先生。古文と漢文の先生だったから、僕は習ったことない。他の先生はおじいちゃん先生って陰で呼んでた。
 その先生が、誰もいないところで勉強させてみたらどうかって提案してね。
 カウンセリングルームがちょうどあいてたから、そこに登校するようになったんだ。
 教科書って先生用の教科書もあるんだよ。生徒用と同じ内容の横に、教え方のマニュアルが載ってるの。
 それを貸してもらって、一人で勉強し始めた。テストと怒られるときだけ教室に入るカンジ。そしたら、どんどん成績が上がってったんだ。
 あ、えっと、自慢じゃなくて。ほんとに自慢じゃないよ
 でも、勉強してる時間が一番いい時間だったのも本当。
 仕事をする時間がいらなくなったんだ。だって、学生の仕事は勉強で、学生は職業だもん。
 仕事相手の子もいなくなったし、……いなくなったな。背も一気に伸びたよ。
 でも、3年生になったら、やっぱり僕はもてあまされるようになっちゃった。
 父さんはね、僕を自分の出た大学に行かせたかったんだ。それ以外とそれ以降とそれ以前は考えたくなかった。
 それは論外。大阪の芸大で、学費がものすごく高い私立だったし。僕は芸術関係の科目が全部苦手だった。それに、父さんが文芸学科を出ても就職先がなくて、学校を入り直して小学校教師になったのも知ってたし。大学の話は遊んでた話しかなかったし。
 えっと、つまりね、僕は一人で就活をしないといけなかったんだけど。ふつうの仕事はぜんぜんだめなのはわかってたんだ。
 前もだめだったけど、もっとだめになってて。しゃべれないから。でも、ちょっとはしゃべれるようになっちゃってたから、支援制度も使えないって。
 就職したら生活保護は減っちゃうし。でも、求職情報をどれだけ探しても、僕と父さんが暮らしていけるお給料をもらえる仕事はなくて。
 父さんの人権活動はお金がかかるから。でも、そういう集会に行かないと、ずっと家で寝ながらテレビ見てお酒を飲んでるから。たまに芥川賞をとる話をして、他はずっとしんどい死にたいって言って。閉じ込められた澱んだ世界は、酸素がどんどん減っていく。
 ……うん。父さんがいなくなればいいってことすら、僕にはわかってなかったんだ。
 そんなときに、○○大学附属高校の推薦の話がきて。
 どうしようって。
 その高校ね、毎年地域から一人、推薦入学するしきたりになってたんだけど。
 でもね、全寮制だったから。
 寮って学校でしょ。学校は悪口言われたり、ぶたれたりするでしょ。24時間3年、ずっと休む間もなくいじめられるんだって。家ではいじめられはしなかったもの。
 でね、担任の先生にね、その高校にはカウンセリングルームがありますかってきいたらね。
「高校ではちゃんと教室に入れ」って怒られて。じゃあ、もう二度と勉強できなくなっちゃうんだって。そのときはほんとうにそう思ったんだ。
 それから担任は、僕のせいで苦情に追われてることを教えるようになった。
 教室は勉強できないでしょ? だから、クラスの半分の子は塾に行ってたんだけど。
 その子たちの親が、僕の推薦はえこひいきだって苦情を担任に言うって。
 今思えば僕は甘えてたんだ。だって、がんばればちゃんとできたもの」
 納は繰り返す。
「がんばればちゃんとできたんだよ」
 メフィストが頷くと、安堵したように続きを話す。
「その日は異常気象の日で、5月なのにすごく寒くて、父さんは帰ってこなくて。チャーハンは前の日からずっとできてたけど、帰ってきたときごはんが用意されてないと、父さんは自殺未遂するから食べられなくて。
 ぼくはずっと冷蔵庫の音をきいてた。
 冷蔵庫の音がどんどんうるさくなってきて、それで、外に出たんだ。
 夜道をぐるぐる歩いて、どこかに行きたくて、どこにも行けなくて、たくさん歩いたらファミレスがあって。
 たくさんの”家族”がいた。
 もうだめだってわかった。
 だめになっちゃう兆しが鳴ったんだ。
 おじさんが通りかかったのは偶然だった。
 でも、僕は仕事をしないと戻れなくなっちゃうと思ったから。意図的に、そのおじさんに。
「ごはんちょうだい」
 って笑ってみせたんだ」
  メフィストの手を強く握る。痛みを感じながら、強く握る。
「おじさんはファミレスでグラタンをおごってくれた。ミネストローネとパンも。あったかくて、すごくおいしかった。
 そのままホテルに行くんだと思ってたら、にっこり笑って聞いたんだ。
「宿題、もう終わってる?」って。
 宿題について気にかけてくれた人なんて、初めてだった。
 いつもカウンセリングルームで終わっちゃってたから、「終わってるよ」って言った。
 そしたら「受験生? よかったら勉強教えてあげようか? こう見えても、京大出てるからさ」って。
 そのとき、僕は受験生になった。
 また会う約束をして。約束を守ってくれたのがうれしくて。また会う約束を何度もした。
 ホテルに行っても、おじさんはセックスより勉強を優先させるんだ。
 勉強が終わったら、ご褒美にシュークリームをくれたんだよ。コンビニのおいしいヤツ。
 最初に習ったのは、ノートの取り方。……うん、知らなかったんだ。黒板に書いてある字と先生の言葉を全部覚えてなんとかしてた。だから、先生用教科書を使うようになったら成績が上がっただけ。元々の頭は悪いんだよ。……知ってたね。
 次に習ったのは、わからない問題があっても質問しないこと。生徒用教科書でも、よーく読み返したら、絶対解き方が書いてあるから。質問できると思ってると、手抜きしちゃうから。
 勉強が終わったら、おじさんは必ずほめてくれた。
 今、ほめてもらえるから、24時間3年いじめられてもいいって思った。
 受験生を続けた。
 おじさんはよくしゃべる人だった。京都大学に通っていた学生時代のこと、大企業で働く生活のこと、それから、今学んでいる哲学。
 僕は哲学の話が特に好きで、おじさんが言ってた学者の本を図書館で借りて読むんだけど……。おじさんに聞くと、ぜんぜんわかってないってことを教えてもらえる。
 うん、僕はいつもたりない。
 いつもたりない馬鹿だから。なんにも気づかず壊しちゃった。
 おじさんのおかげで、言葉を使えるようになったのに。しゃべるようになったのに」

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

 株式会社空六六六

 

 京都の皆様、お元気ですか? 俺は今日死ぬかもしれません。
 彼女のお義父さんがヤーさんに「先生」と呼ばれている方でした。現在、彼女のアパートで初対面しておりますが、刀を手の届くところにおいておられます。
鏑木一刀斎(壮年?)「で、納とはどういう関係なんじゃ」
土御門篝火(26歳営業課)「(こわいこわいこわい死にたくない)はっ、お、お嬢さんとは清い交際をさせていただき……」
一刀斎「いい大人が清い交際とかイ○ポか貴様!」
篝火(やべえええ! 何言ってもイチャモンつけはるわこれええ!)
にょたかまどちゃん(26歳入力事務係♀)「先生の女癖と一緒にしないでください! かがり火はちゃんと平日夜はやめといてくれるし、ゴムも自分からつけます!」
一刀斎「ほう……」
篝火(死んだ……。お義父さんが刀に手ぇかけた……)
にょたかまどちゃん「かがり火。今まで黙っててごめん……」
篝火「いや、黙っててほしかったんやで……。って何? なんで七竈も刀に手ぇかけんの?」
にょたかまどちゃん「実は……、鏑木流抜刀術は古流武術じゃなくて、実戦格闘術で……。僕は制度さえあれば師範代の腕前なんだ……」
篝火「え、なんで今それ言うの? 待って。ちょっと落ち着こう?」
一刀斎「男に逆上せて師を侮るか……」
にょたかまどちゃん「先生、ここでお別れです。僕はかがり火を愛しています」
 気合い一声、抜刀!

 

 つづく!


2020/03/29

もてあそぶための犬5

「その夜、おじさんは今日はおいしいものを食べに行こうって、お寿司屋さんに連れて行ってくれた。
 値段が書いてないお寿司屋さん。テーブルにつくと、すぐに「特上2つとビール」って注文したからびっくりした。「こんなにおいしいもの初めて食べる」って言ったし、実際そうだったんだろうけど……。おいしさを感じられなかった。
 おじさんはどんな話を聞いても楽しくなさそうで、自分から何も話さなかったから。
 なんとかして明るい食卓にしなくちゃって、笑って、笑って。
 これはお母さんがいたころの食卓と同じなんじゃないかなって。父さんが明るい食卓じゃないって怒鳴る前に、一所懸命笑う食卓。父さんもお母さんも暗い顔をしてて、お母さんが舌をぴちゃぴちゃ鳴らしたりウンウン荒い息を続ける食卓。思い出しながら笑って。
 だから、食べ終わって「今日、大きな仕事が終わったから……。すごく疲れてるんだ」って聞いたとき、すごくすごく安心したよ。ただ疲れてるだけなんだって。
 ホテルについたら、おじさんはカバンからジュースを出して
「お風呂に入ってくるから、これ飲んでベッドで待ってて」
 って。
 勉強のことを言われないの、ヘンだなって思ったけど。疲れてるんだったって思い直した。
 ジュースを飲んでベッドに潜ったら、すごく眠くなって。きっと僕も疲れてるんだって思って。疲れるようなこと何かしたかなって、考えたんだけど。思い出す前に寝ちゃった。
 目が覚めたら夜が明けてて。たいへんだ、学校、遅刻しちゃうって慌てて。おじさんを探したら、お風呂から水滴の音がして。
 悪い予感がして。
 お風呂の戸を開けたら、やっぱり、おじさんは浴槽に浮いてた。
 何度呼んでも起きなくて。何の音もしなくて。呼吸の音も心臓の音も。
 急いでフロントに走って。救急車がきて。僕はテーブルに置いてあったノートを読んだ。
 おじさんの日記」
『このばかガキだけは、俺の話をきちんと聞く姿勢がある』
『俺が何でも知ってると思っている。ばかだが、そこは加点する』
『今日はうつがひどいせいで、中学生程度の数学もわからなかった』
『なんで教科書を読んだだけで理解するんだ? 異常だ! 低レベルの中学だからにきまってる』
『あのばかガキがうっとうしい。俺の真似をしようと、同じ本を読みたがる。京大卒と同じ本がわかるわけがない。少しこらしめるため、英語の本を言ってやった』
『読んできた。内容はまるきりわかってない。それでも、英語の旧約聖書を読んできた。わからないくせに。ばかのくせに』
『これ以上休職するなら退職しろと会社に言われた』
『家族に言えない』
『あのばかガキなら、別にいいだろう』
「僕は、僕は、褒められたかった。褒められてると信じてた。
 おじさんの奥さんがきて
「なんでちゃんと見といてくれなかったの!」
 って怒られた。
 それから学校で先生に囲まれて、4人の先生がいっぺんに怒鳴るから、何を言ってるか聞き取れなくて。「学校の恥」だけしか聞き取れなくて。
 父さんはマンガ・アニメの性表現から子どもを守る会をやめさせられた、って怒って。それしか怒らなくて。でも、いつも通り自殺未遂はした。
 推薦を取り消すって言われたけど。もう、未来に興味なんてなくなってた。
 でも、次の日に。
 職員室から怒鳴り声が聞こえたんだ。
「七竈君は推薦取り消しなんでしょ! じゃあうちの子が推薦になって当たり前じゃないですか! うちの子は毎日学校から帰ってすぐ塾に行って、夏休みも冬休みも春休みも全部塾に行かせてるんですよ! 私だって仕事があるんです! 送り迎えや食事の準備がどれだけたいへんだと思ってるですか!? それに比べて、あの子はなんにもしてないじゃないですか!」
 同級生の誰かのお母さんだった。担任の先生がなだめる気配がした。僕はもういいよ、その誰かを推薦してって思ってた。
 そのとき、一喝が響いた。
「あんたの息子はそんだけしてもらっても、5分と授業を聞いちゃおれん! あいつは物置にほったらかしにされても、ずっと1人で勉強できるんです!」
 おじいちゃん先生だった。
 違うよ、あなたが勉強する場所をくれたんだよ。1人にしてくれたから、学校で勉強できたんだよ。学生になれたんだよ。
 そう言いたかったけど、職員室での怒鳴り声が激しくなって。あのお母さんはもうおかしくなっちゃうんじゃないかって、それぐらい怒鳴ってて。気づかれる前に担任の先生に追い払われて。
 走って。
 走って。
 誰もいない校庭にたどり着いて。
 教室からはあいかわらずわめく声が聞こえて。
 ぽつぽつ雨が降り始めて。
 グラウンドに水の痕が落ちて。
 僕はやっと、期待されてたのを知ったんだ」
 メフィストの前では泣いてばかりだ。
「甘えてたから、できないって思い込んでたんだ。だって、それからちゃんとできたもの。
 歩いて通える公立高校を探して、受験の申し込みをして、教室に入って、受験して、合格して、入学準備して。
 時間なんかなくてもさ。
 一人で、ちゃんとできたもの」
 メフィストは、泣いても死なないひとだ。
「君は失敗ばかりしたね」
 うなずく。
 メフィストの手が、熱くなった涙を冷ます。
「でも、君がやれる最大限を、ずっとしてきたんだね」
 泣き声で問う。
「メフィストは僕を嫌いにならない?」
 微笑みが返る。
「私は世界中の誰でも、嫌いになるようなことをしたら嫌いになるよ。けれども、納は嫌いになるようなことを、しない」
 暖かさが流れ込む。
 光。
 時間回復(タイム・リカバリー)。
 メフィストは悪魔の女王。
 人間じゃない。
 こうやってけがも治してしまう。
「もうしないね?」
「もうしない。絶対しない。約束する」
 僕の手がベッドに置かれる。
「じゃあ、心配いらないな」
 悪魔の女王は、主として笑う。
「我が下僕(しもべ)。忠実なる犬よ。命令だ。九王が一人、ベルゼブブの羽をもげ!」
 解。
 命令。
 臨戦態勢開始。
「ベリアル! ベルゼブブの招きに応じよう!」
 呼び声。
 ずるずると床から現れるソロモン七十二霊が一人。
「メフィスト!」
 空間に生じたひび割れに、メフィストが消えていく。
「納! 私の軍勢皆に伝えよ! メフィスト・フェレスはベルゼブブの配下に下るか否かの話し合いに応じ、彼の者のゲヘナに入ったと! 疾く伝えよ! 理解した通りに行動せよと!」

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

 にょたかまどちゃんの彼氏となった土御門篝火(26歳営業課)。しかし、義父の襲来からすみやかに鏑木流抜刀術の師弟対決に以降してしまったのであった。

 

東電さん「ざっと見たカンジですと、ブレーカーの故障ですね。……でも、なんで壊れたのかなあこれ……」
土御門篝火「武術家同士の気合いで壊れたんですわ……」
東電さん「あっはっは、彼氏さんおもしろいっすね。すみませんがもう遅いので、明日の修理になりますが……」
篝火「ありがとうございました……。明日……せや……明日を迎えられるんや……」
鏑木一刀斎「チッ。まあ、「真っ暗だから」などとふざけた理由を通した度胸に免じて許してやる。どうせ長続きせんしの」
にょたかまどちゃん「そんなことないです! かがり火は僕を17年も想ってくれてたのです!」
一刀斎「はッ。ろくに男と付き合ったこともないくせによう言うわ。前の男なんぞ1ヶ月で別れて、男なんぞそれきりではないか。なんのために大学まで行ったんじゃ」
にょたかまどちゃん「先生こそなんのために大学行かせてくれたんですか! その彼氏も「なんで俺より講義を優先するんだよ」とか言うから別れたんですよ!」
一刀斎「バカ者! せっかくのキャンパスライフを! 1人と気が合わんかっただけで勉強漬けにしおって……」
にょたかまどちゃん「もー! 先生のバカー! 1人なわけないじゃないですか! ちゃんと4人いたけど、みーんな勉強させてくれないからすぐ別れたんです!」
一刀斎「え……4人……?」
にょたかまどちゃん「だいたい先生は彼女をとっかえひっかえしすぎなのです! 確かにたった4人ですけど、学生の本分は――」
篝火「七竈、七竈、そこまでで。4人おっただけでお義父さん滅多斬りやから」
 父親が信じたいこと1。「娘に彼氏はいない」

 

2020/03/08

蠅の王と鉄の女王

 石と漆喰の壁と床。天井のシャンデリアには、火の代わりにホタル悪魔が灯っている。ガラスの中で諦観する小さな虫。城の主は炎を嫌う。
 ゴシック調の黒いドレスの細身――メフィスト・フェレスは、召し使いにシルクハットを渡した。珍妙な格好をする女だ。
「やはり、城というものはこういうものが懐かしいな」
 勧めるままに椅子にかけ、ゆっくりとした仕草で周囲を見渡す。
「以前、ノルマンディーにこういう城があったのを思い出す」
「旅行かね?」
「いや、落とした」
 女の冗談には趣味が悪い。ベルゼブブは話題を変える。
「急ぎのことで、ろくな椅子が用意できなかった。すまぬ」
 絹糸で薔薇を刺繍した椅子を指す。鮮やかな赤が見事な椅子だ。
 しかし、メフィスト・フェレスはつまらなそうに淵をなぞる。
「いや、君が急いでくれたことに感謝する。しかし、本当にひどいな。見たところ、16世紀に腕のよい職人が作ったものだが……。せっかくの人体の構造を熟慮した形を、後から見栄えだけのために張り付けたクッションが台無しにしてしまっている。張り替えが間に合わなかったのだな、すまない」
 傲慢。
 怒りを堪える。複眼をぎょろつかせながら、従者が2人にシャンパンを差し出す。
「命じる前に準備しているとは、よい働きだ」
 ベルゼブブは従者を褒めてやり。
「だが、今後は差し出す前にシャンパンでかまわないかうかがうことだ。相手の好みを知っていても、その方が礼を尽くしていると伝わる」
 きちんとアドバイスもしてやる。
 メフィスト・フェレスは、我関せずとグラスを受け取る。一口含む。
「これはすばらしい」
 感嘆の微笑み。思わずベルゼブブも口元を緩ませる。なにせ、そのシャンパンは部下のうちでも一番の下っ端が道の駅で買った安物だ。
 しかし、次の言葉で顔が強張った。
「わざわざ岡山の田舎まで出向いてくれたのか?」
 メフィスト・フェレスは変わらず微笑んでいる。
 ベルゼブブはとっさに嘘を吐く。
「いや、たまたま手に入ったものだ。詳しくは知らん」
 メフィスト・フェレスは微笑みをやめない。
「それは幸運だったな。このシャンパンに使用されている葡萄は、とある福祉施設で育成されているものだが……。葡萄園の土壌が特殊でな。シャンパンにするとスモークのような独特の香りが入る。好みはわかれるが、私は好きだ。しかしながら、農園の規模が小さすぎて、たった1カ所の道の駅にしか下ろせない。ぜひとももう一度味わいたいと思っていた」
 嗤っていやがる。
「感謝する」
 分をわきまえずに。
 とっさに女の頬を打つ。女は平然とグラスを置く。唇から流れた血をハンカチで拭う。その前にグラスの口紅を拭う。
「今は、私は客人だ」
 足を組む。ヒールの赤い靴裏が見える。
「しかし、今後はそうもいくまい。ベルゼブブ、私に何を望むのだ?」
 もう一度殴るのを堪える。
「貴様などに何もできるものか。メフィスト・フェレス、貴様が余の手中にあるというだけで、サタンは揺らぐ。あの男の最たる欠点は、愛妻家であることだからな。それは貴様が一番よく知っているはずだ、メフィスト・フェレス。サタンの王妃。奥方よ」
 わざとらしいため息。
「それはいささかもったいない」
 右手を軽く挙げて見せる。
「ベルゼブブよ、君はサタンの玉座を奪うのだろう? つまりはクーデター。戦(いくさ)だ。使える者は使っておきたまえ」
「何度も言わせるな。貴様にできることなどない」
 傲慢なるメフィスト・フェレスはうそぶく。
「私は2000年、人類の戦場を渡り歩いた。君に戦の……、いろはぐらいはを教えてやれる」
 ベルゼブブは席を立つ。
「なら、そこで勝手にさえずっていろ。ピイピイかしましいのは女の性(さが)だ」

 

 荒野。乾いた地面はひび割れ、いくつもの岩を突き立てている。遠くに石造りの塔が見える。城の先端、塔。
 風が巻き起こる。上空から、ジョーイが降りてくる。
「まずはこのゲヘナの、東西南北の基準を統一しよう。現在は日本時間でAM6時。よって、あの太陽を模した光球がある方向を東とする。OK?」
 うなずく。
「OK。今僕らがいる地点は、南の端だ。東側には湖が広がっている。海かもしれない。西には……まあ、見えているけど……ベルゼブブの城がある。軍事用とは言いがたいな、普通に住んでる城だろう。この南から北にかけては、ずっと似たようなカンジだ。水分の少ない平面と3〜5メートル台の岩」
 中津が問う。
「敵さんの動きは?」
「動きはない。こちらに気づいている気配がないんだな。カロル、そんなことが可能なのかい?」
 半ヴァンパイアの神父はしぶしぶ答える。
「ヴァンパイア及び共に行動する者は、内側から入室許可の意思表示があればどこにでも入れる。それが家主からのものである必要はない。今回の入室許可はメフィストのババアが勝手に出したモンだろう。わざわざベルゼブブに教えてやるか」
 他のメンバーはマリュースク、妙高蛍、ユキ・クリコワ……七竈納。 
 中津が再確認する。
「坊っちゃん、メフィスト姐さんの命令は確かに「ベルゼブブの羽をもげ」かね?」
 納はしかと敵城を見る。
「うん。そう」
 ジョーイはまたうなずく。
 そしてマリュースクに向き直る。
「巣をつつこう」
 轟音。
 敵城に、ナヌークの砲撃がぶちこまれる。

 

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

 マリュースク(26♀)。入力事務係。一人で回していた(回ってねえよ!by社員)入力事務係に七竈納(24♀新卒)が配属され、初めて部下を持つ。
マリュースク(えらくぽーっとしたのが入ってきましたね……。人の上に立ったことはありませんが、とりあえず新人にはめんどくさい単純作業をやらせておけばよいのでしょう)
 弊社入力事務係の仕事は、だいたい全部めんどくさい単純作業である。なお、できていない。
マリュースク「顧客へのDMとなんらかの郵送書類です。すべて宛先を印刷し転入しなさい」
にょたかまどちゃん「はいっ。それは封入で合ってますか?」
マリュースク「そうとも言うかもしれません」
(4時間後)
マリュースク(まったく集中を切ることなく、ずっと黙々と続けていますね……。めんどくさくならないのでしょうか……。しかし、別の仕事をしている私がとっくにめんどくさいです)「七竈、昼食にしましょう」
にょたかまどちゃん「(スイッチオフ)はいっ! わあっ、マリュースクさんのお弁当おいしそー」
マリュースク「はい」(にょたかまどちゃんの口に唐揚げを放り込む)「静かにしていなさい」
にょたかまどちゃん「おいしい! はい!」
マリュースク(おにぎりを食べ終わると同時に寝てしまった……。疲れるということがわからないのでしょうか……。……! これはめんどくさい単純作業を全部やらせて、適当に「休憩しなさい」と言うだけで管理していることになりますね。上司というものは存外簡単です)

 

蛍(24♀営業課)「お前、マリュースクさんと上手くやれてる? あの人、仕事できなくて有名なんだけど」
にょたかまどちゃん「そんなことないよ! マリュースクさん、すっごくいい上司だよ! 雑談しなくていいし、休憩の指示はくれるし、ラクなお仕事ばっかりふってくれるし、お弁当わけてくれるもん!」

 



2020/05/09

忠実なる猛犬1

「ねえ、中津さん」
 ベルゼブブのゲヘナ南端。中津礼二指揮官代理に問う。
「敵が気づいてないのに、こっそり城に忍び込んだりしないの?」
 聞こえる鳴き声。巨大な虫の這いずる音。破壊音。破壊音。破壊音。
「しないよ坊ちゃん。そいつぁ余計なことになっちまうからね」
 砂塵。破壊!

 

「ベルゼブブ陛下! 奇襲です! 敵が奇襲をしかけてきました!」
 ベルゼブブは振り返る。
 メフィスト・フェレスは悠然と座っている。
「講義を始めよう。いろはのいだ。いかなる状況下においても、上に立つ者はオロオロしてはならない」

 

 三連式レーザーキャノン『カラマーゾフ』
 ウクライナ分離独立派に支給するために、ロシア軍が開発。
 持ち手に絡まる鎖状の部品から、使用者のエネルギーを吸収。熱光線として射出する。一度に射出できる本数は1〜90本。
 威力及び射程距離は7.62ミリ弾と同程度。ただし、一度の射出における最大射程範囲は、70メートルの扇形である。
 全長1.3メートル。重量70キロ。エネルギーを的確に吸収するため、担いで引き金を引く。色彩は、カモフラージュを貼り付けやすくするためにホワイト。
 なお、前例のない武器のため、三連式はあだ名にすぎない。
『ユキちゃん、新兵器の調子はどうだい?』
 ジョーイ・ラスボーン指揮官代理からオープンの通信。
 斥候から本隊に移行しつつあるムカデ状の兵たち。
『カラマーゾフ』の熱光線が薙ぎ払う。
 焼け落ちる兵の悪臭。悲鳴。間髪を入れず熱。
 ユキ・クリコワ、南端を単騎防衛中。
「ダメですね。つかれる。おっぱい減る」
 三連式レーザーキャノン『カラマーゾフ』
 必要なエネルギー量の過多。熱光線射出と同時に、使用者が衰弱死するため開発中止。

 

 メフィスト・フェレスは語り続ける。
「親衛隊より伝令! 白髪の少女と交戦中!」
「では講義を続けよう。戦争の勝利条件とは兵力と補給だ。兵の数と弾の数とパンの数が多い方が勝つ。将の仕事と主たる作戦とは、それらが常に敵より多い状態を保つことであり」
「第三部隊より伝令! 狙撃されています!」
「保てない場合には「いつか保てるようになる」と信じさせることである」
「親衛隊より伝令! 救援要請!」
「さて、信じさせるにはどうするべきか?」
「第三部隊より伝令! 救援要請!」
「訓練しろ。金を稼げ。索敵しろ。包囲しろ。分断しろ。補給路を造れ。補給路を断て。裏切らせろ。裏切れ。見せしめに殺せ。無駄に殺すな。精神論を捨てろ。志気を挙げろ。副官を信じろ。副官は2人以上置け。それから」
「親衛隊と連絡が取れません!」
「第三部隊より連絡が途絶えました!」
「何一つ不利な状況にない敵が大物をよこしたら、必ずトロイの木馬なのだ」

 

 妙高蛍はライフルをしまう。
 オープンの通信に告げる。
「ヤバイ。逃げるわ」
『は? どういうこと?』
 聞き返すジョーイ・ラスボーン。上空からの索敵担当も兼務。
「俺は逃げるって言ってんの」
 眼下の虫共を見下ろす。先ほどまで隊長を狙撃で失い、烏合の衆と化していた連中。
 今でも烏合の衆であることに変わりはない。
 だが。
「あいつらの動きから恐怖が消えてる。強力な味方がくるとでも思ってんじゃねえの。つーわけで、そいつが到着する前に逃げる。納、後はよろしく」
 七竈納の返答。
『わかった』
『勝手にわかったって言わない!
 ほんっとにスナイパーは言うこときかない! 協調性がない! スタンドプレーに走る! すぐに逃げる! わがままで気難しくて頑固で身勝手で扱いにくい!
 ……中津さん、予定より早いけど……いけそう?』
『博打かもしれねえなあ。賭けてみるか』

 

 ピルケースを取り出し、錠剤を水なしで飲み込む。
 予定外のことも、これで大丈夫。
 ふいにカロルの視線に気づく。
「お前は薬なしでは戦えないのか?」
 視線の不審に気づく。
「……うん」
 カロルはそのまま何も言わない。
 納は気づく。
 そうだ。薬って、ふつう飲まないんだ。
 小林小五郎との記憶が開く。
『あんなに病院嫌いなのに、ちゃんと薬飲めてえらいね』

 

 5月の始まり。納は診療所で捕縛されていた。
 十三番街には一軒だけ診療所があり。たぬき先生というあだ名の先生が、内科と外科の先生をしている。
 そして、納の母子手帳は出産以降白紙で。逆にそんなものがあったのに驚いたのだけど。
 とかく、ごみの層の中から見つかり。
 そして、白紙ということは、納はぜんぜん予防接種を受けていないということであり。
 メフィストの時間回復は病気は治せず。
 十三番街は街の外では消えた感染症がまだあるのだった。
「……麻疹の患者さんが来たのなら、今、中に入ってうつしてもらえばいいんじゃないかな……」
 診療所前は片方がスロープ、片方が階段になっている。納は階段に座り、小林さんに学ランの背中を捕まれていた。
 小林は困った顔のまま、いや、たぶん実際困っていたんだろう。診療所の前を歩いていただけなのに、たぬき先生から「そこの男の子が注射から逃げ出さないように捕まえてて」などと命じられてしまったのだから。でも、困りながらも。
「うーん……実際にかかっちゃったら、治すための注射とかされちゃうんじゃないかな……」
 と教えてくれた。
 それをきっかけに仲よくなった。

 

 仲よくなったと思っていた。
『ふざけるなよ! 君ならうまくいくんだよ! 僕なんかとは違うんだ! 君は、君は違う存在なんだよ!』
 違うよ。僕はうまくいけない存在なんだよ。
 なんで嫌われちゃったのかも、その程度のこともわかんないんだ。
「嬢ちゃんは西に移動しながら、東に虫共を追い立てろ。坊ちゃんとカロルも西に移動。虫共を追い立てながら、ベルゼブブの新手を待って待機だ。ジョーイ、どの場所がいい?」
「ちょうどいい平地がある。西側、ベルゼブブの塔が正面に見える平地に移動しろ。そこでバカ強い新手を迎え撃て」
 もう嫌われたけど、もしまた会えたら約束を守る。
 今から死ぬかもしれないから、そのときだけは守れないけど。
「カロル、七竈納、投入だ」
 停止。起動。征!

 

 

≪空六六六ぷらす!≫

 

こちらはおまけですので、設定及び人間関係が本編と異なります。

 

株式会社空六六六

 

ジョーイ・ラスボーン(33歳営業課)「次の休みなんか予定ある?」
妙高蛍(♀24歳営業課)「納の髪切りに行く。お前は?」
ジョーイ「マリュースクを服買いに連れて行く。にしても、七竈ちゃん、わりと髪長いのによく切れるね」
蛍「俺が切った方がきれいとか言うけどね。絶対美容院嫌いなだけだよアレ。お前こそ、マリュースクの服毎回お前のフルコーデじゃん」
ジョーイ「だって、本人に任せると中学生になっちゃうんだぜ。サイズも洗濯表示もろくに見れないし」
蛍・ジョーイ(まったく俺(僕)がいないとしょうがないんだから?)
 この妹分第一主義者ども、同棲中である。

 



 2020/05/09